定期更新型ネットゲーム「Ikki Fantasy」「Sicx Lives」「Flase Island」と「Seven Devils」、「The Golden Lore」の記録です。
カテゴリー「定期日誌」の記事一覧
- 2025.01.22 [PR]
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- 2011.02.03 探索61日目
- 2011.01.31 探索60日目
- 2011.01.21 探索59日目
- 2011.01.14 探索58日目
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「ボクの♪ 名前は宝石商人♪ 世界で♪ 一番強いオトコノコ♪」
「………なんですかそれは」
シャルの音楽講座は続いていた。
「ん~? これはね、むかーしむかし、ボクがある世界で遊んだときに名乗った
『マーシャン=ジュエル』にちなんで、歌っていた歌だよ!」
宝石=ジュエル。
商人=マーチャント、もしくはマーシャン。
あまりにそのまますぎる名前に、くらりとカルニアは頭を抑えた。
「それ…偽名ってバレバレでしょう?!」
あーはっはっはっはっは。
いつもの呪いをばらまく笑い声を立てると、シャルは指を立ててちっちっち、
と言った。
「言葉が違うんだ。だからバレなかったよ」
「自分で『ボクの名前は宝石商人』と言っているだろう。馬鹿が」
いつの間にか寄ってきていたデスティニーが毒を吐く。
シャルはそっちを見てしばらくぱたぱた動くデスティニーの翼を見ていた。そして。
あーはっはっはっはっは!
また笑った。
「気付かなかったー! ボク、1万年前のことだけどびっくり!」
サバを読んでいるが、そこは無視しよう。
「そうかー。空気を読んで仲間は突っ込まなかったんだね!
そんな器用なことできるような子たちだったとは! びっくり!」
「仲間…?」
デスティニーが問う。
それにくるりと振り向いて、シャルはにこーっと笑った。
「そう、仲間! 一緒に旅をしたんだよ。
でもボク、その子たちを誘導していただけなんだー。最後には裏切っちゃった!」
「裏切っ…た…?」
ふらふら…とデスティニーは下に転落していく。それをさっとフェイテルが支えた。
「だいじょうぶ?」
「あ、ああ…」
「どうしたの?」
「わからない。アイツの話を聞いていたら、なにか僕は誰かにとんでもないことを
押し付けたような気がしてきたんだ…」
――貴様に役目を与える。
――簡単なことだ。貴様は僕と連なる者。
苦しそうなデスティニーを見ていたフェイテルは歌いだした。
「闇をつらぬくものよ~♪ 汝、何を求む~? 真実はどこにもないと~♪
彼は囁いた~♪」
デスティニーは驚いた顔をして、フェイテルのほうを見る。
「歌…歌えるようになったのか?」
「ええ――まだ、意味はよくわからないけれど」
ぱたぱた。ぱたぱた。
双翼は羽ばたく。お互いに見つめあいながら。
(ふーん。フツーに仲いいじゃん)
シャルはそう思いながら見守っていた。
「データゲットですよー!」
そこへ空気を読まないカルニアが襲い掛かる。
とっさに結界を張るデスティニー。遅れるフェイテル。
「フェイテル!」
自分の結界を広げ、フェイテルをカバーしようとするも、
一足遅く、彼女はカルニアにすくい上げられていた。
「…………」
しかしそこでカルニアは沈黙する。
「血が…無い!?」
その言葉と同時にフェイテルは逃げ出す。デスティニーの横にわざわざ並んで、
自分で結界を張った。
くすくすくす…
笑い声が聞こえる。
振り返るカルニア。
デルタが、壁の影から覗き込んで、笑っていた。
「――知ってたんですね!」
怒り、カルニアはデルタのほうへ走っていく。
その後頭部に、デスティニーが呼び出した氷塊が突き刺さった。
どうやら転生司たちは順調に成長しているようだ。
「………なんですかそれは」
シャルの音楽講座は続いていた。
「ん~? これはね、むかーしむかし、ボクがある世界で遊んだときに名乗った
『マーシャン=ジュエル』にちなんで、歌っていた歌だよ!」
宝石=ジュエル。
商人=マーチャント、もしくはマーシャン。
あまりにそのまますぎる名前に、くらりとカルニアは頭を抑えた。
「それ…偽名ってバレバレでしょう?!」
あーはっはっはっはっは。
いつもの呪いをばらまく笑い声を立てると、シャルは指を立ててちっちっち、
と言った。
「言葉が違うんだ。だからバレなかったよ」
「自分で『ボクの名前は宝石商人』と言っているだろう。馬鹿が」
いつの間にか寄ってきていたデスティニーが毒を吐く。
シャルはそっちを見てしばらくぱたぱた動くデスティニーの翼を見ていた。そして。
あーはっはっはっはっは!
また笑った。
「気付かなかったー! ボク、1万年前のことだけどびっくり!」
サバを読んでいるが、そこは無視しよう。
「そうかー。空気を読んで仲間は突っ込まなかったんだね!
そんな器用なことできるような子たちだったとは! びっくり!」
「仲間…?」
デスティニーが問う。
それにくるりと振り向いて、シャルはにこーっと笑った。
「そう、仲間! 一緒に旅をしたんだよ。
でもボク、その子たちを誘導していただけなんだー。最後には裏切っちゃった!」
「裏切っ…た…?」
ふらふら…とデスティニーは下に転落していく。それをさっとフェイテルが支えた。
「だいじょうぶ?」
「あ、ああ…」
「どうしたの?」
「わからない。アイツの話を聞いていたら、なにか僕は誰かにとんでもないことを
押し付けたような気がしてきたんだ…」
――貴様に役目を与える。
――簡単なことだ。貴様は僕と連なる者。
苦しそうなデスティニーを見ていたフェイテルは歌いだした。
「闇をつらぬくものよ~♪ 汝、何を求む~? 真実はどこにもないと~♪
彼は囁いた~♪」
デスティニーは驚いた顔をして、フェイテルのほうを見る。
「歌…歌えるようになったのか?」
「ええ――まだ、意味はよくわからないけれど」
ぱたぱた。ぱたぱた。
双翼は羽ばたく。お互いに見つめあいながら。
(ふーん。フツーに仲いいじゃん)
シャルはそう思いながら見守っていた。
「データゲットですよー!」
そこへ空気を読まないカルニアが襲い掛かる。
とっさに結界を張るデスティニー。遅れるフェイテル。
「フェイテル!」
自分の結界を広げ、フェイテルをカバーしようとするも、
一足遅く、彼女はカルニアにすくい上げられていた。
「…………」
しかしそこでカルニアは沈黙する。
「血が…無い!?」
その言葉と同時にフェイテルは逃げ出す。デスティニーの横にわざわざ並んで、
自分で結界を張った。
くすくすくす…
笑い声が聞こえる。
振り返るカルニア。
デルタが、壁の影から覗き込んで、笑っていた。
「――知ってたんですね!」
怒り、カルニアはデルタのほうへ走っていく。
その後頭部に、デスティニーが呼び出した氷塊が突き刺さった。
どうやら転生司たちは順調に成長しているようだ。
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「ドミソ♪」
「ド、ミ、ソ」
「うん、上手上手~♪」
シャルは歌っている。
フェイテルがそのあとをゆっくり練習する。
「うん、じょうず、じょうず」
「そこまではやらなくていいから!」
和やかな空気だ。しかしそれ以外の場所の空気は殺伐としている。
「うう…どうして近寄らせてもらえないのでしょうね…それだけなら
まだ我慢もできますが、子供用の食事作りを押し付けられるなんて…」
涙をちょちょぎらせながら、カルニアは鍋で食事を作っている。
その後ろで、きらきらとがおが食事を狙っている。
ベータが木材を運んできた。そして木材を置くと、静かにがおを運搬、
エリアスの横まで持っていく。
エリアスは固まっている。頭の上にいるデスティニーを落とさないための配慮だが、
気を使われているなど、頭上の生き物は考えていない。
彼は今、必死に抵抗しているのである。
ガンマがつんつんと薙刀で突こうとするので結界を張る。しかし昔は無敵の威力を
持っていた結界も、ガンマが数回突くとパリンと割れる。そして張りなおす。
最初から機嫌の悪い顔をしているデスティニーの顔がどんどん赤くなっていく。
そして――
「貴様っ、いい加減にしろ!」
叫んだ。
「ひゃはははははっ! 簡単にキレるなぁ」
その言葉に、はっと気がつく。おもちゃにされていたことに。
そして怒りだす。
ちゃきっと杖を構えると、ぶつぶつと詠唱をはじめた。
「おっと、これはまずいぜ?」
そう言いながらも微動だにしないガンマ。
デスティニーの黒槍が現れると、ひらりひらりとかわした。
「――っ!」
「残念だったな。この世界でも魔法は避けられるんだぜ?」
こつん。
笑うガンマの頭にデスティニーの杖が飛んできた。
唐突すぎてそれには当たるガンマ。
「八つ当たりか?」
たいしたダメージにもならない。そう言いながらガンマが杖を手に取り、
「ちっちぇー杖だなぁ」などと言っていると、デスティニーは再び杖を振っていた。
「いくつ持ってるんだよ…」
デルタはその様子をにこにこと見ていた。
そこにフォーゼがやってくる。
「おや。カルニア君は料理を作りながらでも自分の目的を果たそうとしているのに、
キミは手伝わないのかな?」
声に反応して、デルタはそちらを見る。
「あら、フォーゼ様。私は血の魔女。血が無い相手にはなにもできませんわ」
「ほう」
デルタはそこまで調査していたのだ。その抜け目の無さにフォーゼは最初感心した
声を上げたが、やがてくすくす笑い出した。
「どうかいたしましたの?」
「いやね、主人のカルニア君より調査が進んでいるなんてキミは優秀だなと
思ってね」
「まあ」
にこ、とデルタは笑う。
「そして、カルニア君にはそれを教えない。意地悪だなぁ」
そう言って横に並ぶ。デルタの手が伸びない範囲に。
「マスターも私と同じ努力をすればいいのですわ。そして絶望すればいいのですわ」
「おやおや」
「お話しは変わりますが、フォーゼ様は、完全な人型にもなれますの?」
唐突なことを言ってきたデルタ。それに少々驚いて、フォーゼの瞳が見開かれる。
「なれるけれど。どうしたんだい?」
「……ごめんなさい。無かったことにしてくださいまし。
シャル様で我慢しなくては」
珍しく弱気になったデルタに、フォーゼは首をかしげて、一歩踏み出した。
きらり。
デルタの目が光る。
「近寄りましたわね!」
「残念、それは残像さ!」
フォーゼの残した鏡も光る。
「まあ。参りましたわ。それにしても鏡を使うとはいえ、分身も作れるなんて、
ほとほとマスターと似てらっしゃいますのね」
フォーゼは苦笑する。
「油断も隙もないんだから…カルニア君はだいぶ性格が丸くなったけれど、
キミは変わらないね」
それを褒め言葉ととったのか。デルタは満面の笑みを浮かべ、
「ありがとうございます。マスターがころころ感化されるので、
元のマスターの記録をするのも、私たち部下の仕事なのですわ」
少々胸を張りながら言った。
「ほう…変わってもいいと思うのだけれどね」
「それは人間のお話。マスターはもともと人間だから仕方がないのかも
しれませんけれど」
ふむ。
フォーゼは考えながら、自分を思って死んだ親友のことを思い出す。
デルタから遠ざかりながら。
「ああ、行ってしまいますの?」
「キミの近くだと考え事もできないからね」
「そうですか…」
フォーゼは立ち去り、デルタはシャルのほうに視線をやった。
「シャル様は優しすぎて…やっぱり物足りませんわ」
戻ってシャルとフェイテルである。
「ねえ」
シャルは真面目な顔をして、フェイテルに聞く。
「なにかしら?」
フェイテルはきょとんとして、それに答える。
「キミたちってトイレするの?」
そう言葉が発せられると、小さな翼で顔を隠してしまった。
「恥ずかしいことを言うのね。しないわ」
「よかったー。おむつの心配はいらないね」
こつん。
遠くから杖が飛んできた。
「ド、ミ、ソ」
「うん、上手上手~♪」
シャルは歌っている。
フェイテルがそのあとをゆっくり練習する。
「うん、じょうず、じょうず」
「そこまではやらなくていいから!」
和やかな空気だ。しかしそれ以外の場所の空気は殺伐としている。
「うう…どうして近寄らせてもらえないのでしょうね…それだけなら
まだ我慢もできますが、子供用の食事作りを押し付けられるなんて…」
涙をちょちょぎらせながら、カルニアは鍋で食事を作っている。
その後ろで、きらきらとがおが食事を狙っている。
ベータが木材を運んできた。そして木材を置くと、静かにがおを運搬、
エリアスの横まで持っていく。
エリアスは固まっている。頭の上にいるデスティニーを落とさないための配慮だが、
気を使われているなど、頭上の生き物は考えていない。
彼は今、必死に抵抗しているのである。
ガンマがつんつんと薙刀で突こうとするので結界を張る。しかし昔は無敵の威力を
持っていた結界も、ガンマが数回突くとパリンと割れる。そして張りなおす。
最初から機嫌の悪い顔をしているデスティニーの顔がどんどん赤くなっていく。
そして――
「貴様っ、いい加減にしろ!」
叫んだ。
「ひゃはははははっ! 簡単にキレるなぁ」
その言葉に、はっと気がつく。おもちゃにされていたことに。
そして怒りだす。
ちゃきっと杖を構えると、ぶつぶつと詠唱をはじめた。
「おっと、これはまずいぜ?」
そう言いながらも微動だにしないガンマ。
デスティニーの黒槍が現れると、ひらりひらりとかわした。
「――っ!」
「残念だったな。この世界でも魔法は避けられるんだぜ?」
こつん。
笑うガンマの頭にデスティニーの杖が飛んできた。
唐突すぎてそれには当たるガンマ。
「八つ当たりか?」
たいしたダメージにもならない。そう言いながらガンマが杖を手に取り、
「ちっちぇー杖だなぁ」などと言っていると、デスティニーは再び杖を振っていた。
「いくつ持ってるんだよ…」
デルタはその様子をにこにこと見ていた。
そこにフォーゼがやってくる。
「おや。カルニア君は料理を作りながらでも自分の目的を果たそうとしているのに、
キミは手伝わないのかな?」
声に反応して、デルタはそちらを見る。
「あら、フォーゼ様。私は血の魔女。血が無い相手にはなにもできませんわ」
「ほう」
デルタはそこまで調査していたのだ。その抜け目の無さにフォーゼは最初感心した
声を上げたが、やがてくすくす笑い出した。
「どうかいたしましたの?」
「いやね、主人のカルニア君より調査が進んでいるなんてキミは優秀だなと
思ってね」
「まあ」
にこ、とデルタは笑う。
「そして、カルニア君にはそれを教えない。意地悪だなぁ」
そう言って横に並ぶ。デルタの手が伸びない範囲に。
「マスターも私と同じ努力をすればいいのですわ。そして絶望すればいいのですわ」
「おやおや」
「お話しは変わりますが、フォーゼ様は、完全な人型にもなれますの?」
唐突なことを言ってきたデルタ。それに少々驚いて、フォーゼの瞳が見開かれる。
「なれるけれど。どうしたんだい?」
「……ごめんなさい。無かったことにしてくださいまし。
シャル様で我慢しなくては」
珍しく弱気になったデルタに、フォーゼは首をかしげて、一歩踏み出した。
きらり。
デルタの目が光る。
「近寄りましたわね!」
「残念、それは残像さ!」
フォーゼの残した鏡も光る。
「まあ。参りましたわ。それにしても鏡を使うとはいえ、分身も作れるなんて、
ほとほとマスターと似てらっしゃいますのね」
フォーゼは苦笑する。
「油断も隙もないんだから…カルニア君はだいぶ性格が丸くなったけれど、
キミは変わらないね」
それを褒め言葉ととったのか。デルタは満面の笑みを浮かべ、
「ありがとうございます。マスターがころころ感化されるので、
元のマスターの記録をするのも、私たち部下の仕事なのですわ」
少々胸を張りながら言った。
「ほう…変わってもいいと思うのだけれどね」
「それは人間のお話。マスターはもともと人間だから仕方がないのかも
しれませんけれど」
ふむ。
フォーゼは考えながら、自分を思って死んだ親友のことを思い出す。
デルタから遠ざかりながら。
「ああ、行ってしまいますの?」
「キミの近くだと考え事もできないからね」
「そうですか…」
フォーゼは立ち去り、デルタはシャルのほうに視線をやった。
「シャル様は優しすぎて…やっぱり物足りませんわ」
戻ってシャルとフェイテルである。
「ねえ」
シャルは真面目な顔をして、フェイテルに聞く。
「なにかしら?」
フェイテルはきょとんとして、それに答える。
「キミたちってトイレするの?」
そう言葉が発せられると、小さな翼で顔を隠してしまった。
「恥ずかしいことを言うのね。しないわ」
「よかったー。おむつの心配はいらないね」
こつん。
遠くから杖が飛んできた。
かりかりかり…
シャルがペンを動かしている音だ。
魔方陣の上でもぞもぞ動いている物体を描いているのである。
「ちっちゃいなぁ。オルドビスに見せてあげたいよ。全力で嫌がるだろうなー」
合同宿舎(未だ仮名)の主の名を出す。彼は子供が嫌いなのだ。
ちっちゃい、と言われた者たちはそれぞれの表情でシャルに声をかける。
「嫌がるなら、行きたくないわ」
「僕を玩具扱いするな!」
ぱたぱたぱた…黒い翼たちが音を立てる。それを満足そうにシャルは片肘をついて、
視線を彼らのもとへ下ろした。
「へーぇ。ちっちゃいときはもっと人間っぽかったんだ。成長するんだね。
ふーんふーん」
こつん。
シャルの鼻面に小石が当たる。
小さなデスティニーが手に持った杖を突き出して、魔法を唱えたらしい。
「あっはっは。全然痛くないよー」
「くそっ」
あの、無感情だったデスティニーと本当に同じ物体なのか怪しいくらい、
感情をあらわにした小さな黒い翼を持つ者は目を閉じて、ぶつぶつと詠唱を始める。
「やめなさいな」
小さなフェイテルがいさめる。しかしデスティニーの言葉は止まらない。
「受けてみろ、黒槍!」
こつん。
小さな、つまようじくらいのサイズの黒い槍がシャルの鼻面を再び襲う。
「あっはっは。痛くない」
シャルはまたカラカラと笑う。
「………!」
ぽいっと、ちびデスティニーは杖を投げ捨てた。
「ホントに、無力になっちゃったんだね…」
それを見て、しみじみとシャルは言う。
おそらく先ほどの黒い槍は、フェイテルを倒したものだろう。
「まあいいか」
シャルはそう言って、二人を見る。
ちびフェイテルはちびデスティニーのことを心配そうに見た。
―― そう、あのわざとらしい笑顔はもうそこには無い。
シャルでさえ知らなかった、司の素顔。デスティニーが、フェイテルを、
いや、フェイテルが他の司を憎む前に戻ったのだ。
それだけなのだ。
「これが正しい姿なら…」
願わくば、他の司の復活を。
でもそれはきっと叶わぬ夢。
ならば自分のできること。それはこの子たちを導くことではなかろうか。
「これからこの子達を育てていこう。ボクが」
母性本能を爆発させて、シャルは二人を抱えると、仲間の下へ歩いていった。
カルニアとフォーゼが、まとまって彼らを食い物にしようとするものだから、
シャルは久しぶりにカリスマオーラを身にまとい、簡単に退治してのけた。
それをぽかんと見ていたエリアス。
自分の父と、それを苦しめていた女が赤子になったのを知り、恐る恐る手を伸ばす。
「簡単に…壊れてしまいそうだな」
そう言って。
「大丈夫よ。あなたは優しいから」
ちびフェイテルがそう言えば、
「ふん。僕から連なるもの。お前の頭の上を指定席にする」
ちびデスティニーはふんぞりかえった。
今までとのあまりの違いにエリアスは固まる。
「あーあ。ショートしちゃったね。いい、エリー? この子たち、0歳だから。
途方も無い時間が無くなっちゃってるから。
性格変わっていてもおかしくないんだよ」
そう言ってゆさゆさとゆする。
「………」
しばしの沈黙。
ようやく言葉を発したと思ったら、それは困惑そのものであった。
「し、しかし…デスティニーはこんなに横暴だったのか…」
「横暴とは違うでしょ。ぱたぱた化しただけじゃない?」
ぱたぱた。
デスティニーの羽根からシャルが作ったデスティニーの偽者。
それと今のデスティニーの区別は、サイズも加えてわからない。
よじよじとエリアスの頭に上ったちびデスティニーをシャルはくりくり撫でた。
「この人に俺はついていくべきなのか…?」
「そんなの自分で決めなくちゃ」
シャルはエリアスを切って捨てる。
憂いの瞳は、シャルからすーっと視線をそらせた。
「わーかったわかった。そんな困った顔しないで? ついていかなくていい。
逆にボクタチが彼らにいろいろ教えてあげないといけないよ。
探検はもうやめて、外に出よう?
そしてオルドビスのために面白い話探しつつ、街の住人になろうではないか」
「ふむ…」
エリアスは納得したかのように言った。
が、数瞬置いて、がばっとシャルに詰め寄る。
「それでは俺のやれること、無いではないか!」
「そうかもね。でも、ボクの予定ではそうなってるの。
イヤならなんか見つけてごらんよ。戦う練習とかしたいなら、ボク、一緒に行くし」
シャルは良く言えば、臨機応変できる案を出したのである。
悪く言えば、なんも考えていないとも取れるが。
「それに、フォーゼとキミは、あっちの世界でも仕事あるでしょ?
だからあっちにいてもいいんだよ」
ああオルドビス。ボクもキミと遊びたい。そう歌うように余計なことを付け加え、
くるりと回った。
それにぴくりと反応するちびフェイテル。
「それ。ええと、そう、歌。ねぇ。歌を教えて」
シャルのズボンのすそにつかまって、ちびフェイテルはねだった。
シャルの瞳が一瞬見開かれる。そして笑う。
「いいヨ。フェイテルちゃんには歌を教えてあげよう。
デスティニー君はどうしたもんかねー」
ちらりとエリアスの頭の上を見る。
ぷい、とそっぽを向くちびデスティニー。
「――なんと?」
問うエリアスに、シャルはあははと声を上げて笑う。
「めんどくさいってさ。ボク、そういう子も嫌いじゃないし」
「俺はそういうのはどうも…」
俯くエリアスの肩に、シャルはぽんぽんと手を乗せた。
「じゃ、修業がんばればいいじゃない!
この間、テニスラケットも貸してあげたし。がんばるエリーを見たら、
デスティニー君もちょっとは真面目になるかもよ」
そういうものなのか?
不思議そうなエリアスの視線に、シャルは、周りの環境が成長には一番大切なのさと
笑い、食いしん坊二人を再びぶっ飛ばした。
シャルがペンを動かしている音だ。
魔方陣の上でもぞもぞ動いている物体を描いているのである。
「ちっちゃいなぁ。オルドビスに見せてあげたいよ。全力で嫌がるだろうなー」
合同宿舎(未だ仮名)の主の名を出す。彼は子供が嫌いなのだ。
ちっちゃい、と言われた者たちはそれぞれの表情でシャルに声をかける。
「嫌がるなら、行きたくないわ」
「僕を玩具扱いするな!」
ぱたぱたぱた…黒い翼たちが音を立てる。それを満足そうにシャルは片肘をついて、
視線を彼らのもとへ下ろした。
「へーぇ。ちっちゃいときはもっと人間っぽかったんだ。成長するんだね。
ふーんふーん」
こつん。
シャルの鼻面に小石が当たる。
小さなデスティニーが手に持った杖を突き出して、魔法を唱えたらしい。
「あっはっは。全然痛くないよー」
「くそっ」
あの、無感情だったデスティニーと本当に同じ物体なのか怪しいくらい、
感情をあらわにした小さな黒い翼を持つ者は目を閉じて、ぶつぶつと詠唱を始める。
「やめなさいな」
小さなフェイテルがいさめる。しかしデスティニーの言葉は止まらない。
「受けてみろ、黒槍!」
こつん。
小さな、つまようじくらいのサイズの黒い槍がシャルの鼻面を再び襲う。
「あっはっは。痛くない」
シャルはまたカラカラと笑う。
「………!」
ぽいっと、ちびデスティニーは杖を投げ捨てた。
「ホントに、無力になっちゃったんだね…」
それを見て、しみじみとシャルは言う。
おそらく先ほどの黒い槍は、フェイテルを倒したものだろう。
「まあいいか」
シャルはそう言って、二人を見る。
ちびフェイテルはちびデスティニーのことを心配そうに見た。
―― そう、あのわざとらしい笑顔はもうそこには無い。
シャルでさえ知らなかった、司の素顔。デスティニーが、フェイテルを、
いや、フェイテルが他の司を憎む前に戻ったのだ。
それだけなのだ。
「これが正しい姿なら…」
願わくば、他の司の復活を。
でもそれはきっと叶わぬ夢。
ならば自分のできること。それはこの子たちを導くことではなかろうか。
「これからこの子達を育てていこう。ボクが」
母性本能を爆発させて、シャルは二人を抱えると、仲間の下へ歩いていった。
カルニアとフォーゼが、まとまって彼らを食い物にしようとするものだから、
シャルは久しぶりにカリスマオーラを身にまとい、簡単に退治してのけた。
それをぽかんと見ていたエリアス。
自分の父と、それを苦しめていた女が赤子になったのを知り、恐る恐る手を伸ばす。
「簡単に…壊れてしまいそうだな」
そう言って。
「大丈夫よ。あなたは優しいから」
ちびフェイテルがそう言えば、
「ふん。僕から連なるもの。お前の頭の上を指定席にする」
ちびデスティニーはふんぞりかえった。
今までとのあまりの違いにエリアスは固まる。
「あーあ。ショートしちゃったね。いい、エリー? この子たち、0歳だから。
途方も無い時間が無くなっちゃってるから。
性格変わっていてもおかしくないんだよ」
そう言ってゆさゆさとゆする。
「………」
しばしの沈黙。
ようやく言葉を発したと思ったら、それは困惑そのものであった。
「し、しかし…デスティニーはこんなに横暴だったのか…」
「横暴とは違うでしょ。ぱたぱた化しただけじゃない?」
ぱたぱた。
デスティニーの羽根からシャルが作ったデスティニーの偽者。
それと今のデスティニーの区別は、サイズも加えてわからない。
よじよじとエリアスの頭に上ったちびデスティニーをシャルはくりくり撫でた。
「この人に俺はついていくべきなのか…?」
「そんなの自分で決めなくちゃ」
シャルはエリアスを切って捨てる。
憂いの瞳は、シャルからすーっと視線をそらせた。
「わーかったわかった。そんな困った顔しないで? ついていかなくていい。
逆にボクタチが彼らにいろいろ教えてあげないといけないよ。
探検はもうやめて、外に出よう?
そしてオルドビスのために面白い話探しつつ、街の住人になろうではないか」
「ふむ…」
エリアスは納得したかのように言った。
が、数瞬置いて、がばっとシャルに詰め寄る。
「それでは俺のやれること、無いではないか!」
「そうかもね。でも、ボクの予定ではそうなってるの。
イヤならなんか見つけてごらんよ。戦う練習とかしたいなら、ボク、一緒に行くし」
シャルは良く言えば、臨機応変できる案を出したのである。
悪く言えば、なんも考えていないとも取れるが。
「それに、フォーゼとキミは、あっちの世界でも仕事あるでしょ?
だからあっちにいてもいいんだよ」
ああオルドビス。ボクもキミと遊びたい。そう歌うように余計なことを付け加え、
くるりと回った。
それにぴくりと反応するちびフェイテル。
「それ。ええと、そう、歌。ねぇ。歌を教えて」
シャルのズボンのすそにつかまって、ちびフェイテルはねだった。
シャルの瞳が一瞬見開かれる。そして笑う。
「いいヨ。フェイテルちゃんには歌を教えてあげよう。
デスティニー君はどうしたもんかねー」
ちらりとエリアスの頭の上を見る。
ぷい、とそっぽを向くちびデスティニー。
「――なんと?」
問うエリアスに、シャルはあははと声を上げて笑う。
「めんどくさいってさ。ボク、そういう子も嫌いじゃないし」
「俺はそういうのはどうも…」
俯くエリアスの肩に、シャルはぽんぽんと手を乗せた。
「じゃ、修業がんばればいいじゃない!
この間、テニスラケットも貸してあげたし。がんばるエリーを見たら、
デスティニー君もちょっとは真面目になるかもよ」
そういうものなのか?
不思議そうなエリアスの視線に、シャルは、周りの環境が成長には一番大切なのさと
笑い、食いしん坊二人を再びぶっ飛ばした。
エリアスが見つけた、双子星。
それがだんだん大きくなってくる。
「……?」
呆然とそれを見るエリアスだったが、どんどん顔が引きつってきた。
星が大きくなるのと同時に、音が接近してきているようなのだ。
「なにかが…接近してくる…?!」
「うわっほーい!」
突如、背後から聞こえた謎の…いや、シャルの声。
エリアスを押しのけて、双子星の落下地点に彼は立つ。
ドドーン!
「お、おい。大丈夫か…?」
予想以上の爆音に驚いてエリアスが義理の兄に問う。
もうもうと煙が立っていたが、その煙が晴れると、シャルはニッと笑って、
自分の手に収めたものをエリアスに見せた。
「ホラ! 邪神降臨」
「なっ…」
シャルが持っていたのは、小さな、小さな、フェイテルとデスティニーだった。
「そもそもなんなのだ、邪神降臨とは」
他の者たちがいる、キャンプへと向かいながら、シャルにエリアスは尋ねる。
「この島にはいろいろな力があるでしょ? 成長するはずも無いフェイテルサマも
いろいろ身に付けていたのを知っているよね?」
兄の問いに弟は頷く。
「その中のひとつさ。デスティニーさんがフェイテルサマを倒しちゃってから、
ボクはずっと考えていた。このままでいいのかってね。デスティニーさんも
フェイテルサマも納得していたみたいだけど
置いていかれたこっちは納得してないんだ。
だから、なんとか話だけでもいいから聞き返す方法はないかと、
いろいろ探していたんだよ」
「ふむ」
シャルはエリアスから視線を外すと、歌うように言い始めた。
「この島の、遺跡の外には変な機械があってね。
そこにはいろいろな情報が書いてあった。ボクらと連絡を取りたい人が
お手紙送ってきたりするのもそこで受け取れるようになっていたんだけど…
そこには技の情報のやりとりとかもあるわけよ。その中で見つけたんだよね、
邪神降臨」
くるりと一回転する。
「この島に始めてきたとき、カルニアに説明してもらっていたんだけど、
ボク達が邪心だからかなぁ? そのときは気にも止めてなかったんだよね。
でも、最後の司が消えちゃってから、もう一度、何気なく調べたら、あったんだ。
邪神って人々に呼ばれていた黒い翼のデスティニーさんのことが
すぐに頭に浮かんだよ。そして本当は黒い翼のフェイテルサマのこともね。
だから実験したんだ。二人が復活したらラッキー☆ぐらいの勢いで」
「それで急に毒の再勉強を始めたんですか」
後ろから声がした。
「わっ! カル! なんでボクタチに追いつけるの?! 足遅いのに」
シャルの弟であり、エリアスの兄であるカルニアは、バイクに乗っていた。
「普通に歩いては追いつけないので、乗り物を使ってみました」
そしてにこにこと笑う。
「フェイテル様とデスティニー様が復活したって本当ですか?」
意味ありげな笑いは止まらない。あふれんばかりだ。
「んー。本人かどうかはまだわからないよ。寝てるし」
シャルの手の中で小さな二人は、くぅくぅと寝息を立てている。
「ではぱぱっと確認しましょう。データ採取☆」
カルニアが手を伸ばす。その手をエリアスが掴んで止める。
「なんで邪魔するんですかぁ?」
「気に入らん」
「それだけの理由で邪魔するんですかっ!」
カルニアは情けない声を出した。それでもエリアスは手を緩めない。
「カル、うるさい。起きちゃったらどうするの」
シャルも諫める。
すると、ぱたぱた、と音がして、それからのんびりとした声も聞こえた。
「あら…シャル、カルニア、エリアス。
いつの間にそんなに大きくなったのかしら?」
シャルの手のひらの上の、小さな司がこちらを見て、にこり、と笑った。
それがだんだん大きくなってくる。
「……?」
呆然とそれを見るエリアスだったが、どんどん顔が引きつってきた。
星が大きくなるのと同時に、音が接近してきているようなのだ。
「なにかが…接近してくる…?!」
「うわっほーい!」
突如、背後から聞こえた謎の…いや、シャルの声。
エリアスを押しのけて、双子星の落下地点に彼は立つ。
ドドーン!
「お、おい。大丈夫か…?」
予想以上の爆音に驚いてエリアスが義理の兄に問う。
もうもうと煙が立っていたが、その煙が晴れると、シャルはニッと笑って、
自分の手に収めたものをエリアスに見せた。
「ホラ! 邪神降臨」
「なっ…」
シャルが持っていたのは、小さな、小さな、フェイテルとデスティニーだった。
「そもそもなんなのだ、邪神降臨とは」
他の者たちがいる、キャンプへと向かいながら、シャルにエリアスは尋ねる。
「この島にはいろいろな力があるでしょ? 成長するはずも無いフェイテルサマも
いろいろ身に付けていたのを知っているよね?」
兄の問いに弟は頷く。
「その中のひとつさ。デスティニーさんがフェイテルサマを倒しちゃってから、
ボクはずっと考えていた。このままでいいのかってね。デスティニーさんも
フェイテルサマも納得していたみたいだけど
置いていかれたこっちは納得してないんだ。
だから、なんとか話だけでもいいから聞き返す方法はないかと、
いろいろ探していたんだよ」
「ふむ」
シャルはエリアスから視線を外すと、歌うように言い始めた。
「この島の、遺跡の外には変な機械があってね。
そこにはいろいろな情報が書いてあった。ボクらと連絡を取りたい人が
お手紙送ってきたりするのもそこで受け取れるようになっていたんだけど…
そこには技の情報のやりとりとかもあるわけよ。その中で見つけたんだよね、
邪神降臨」
くるりと一回転する。
「この島に始めてきたとき、カルニアに説明してもらっていたんだけど、
ボク達が邪心だからかなぁ? そのときは気にも止めてなかったんだよね。
でも、最後の司が消えちゃってから、もう一度、何気なく調べたら、あったんだ。
邪神って人々に呼ばれていた黒い翼のデスティニーさんのことが
すぐに頭に浮かんだよ。そして本当は黒い翼のフェイテルサマのこともね。
だから実験したんだ。二人が復活したらラッキー☆ぐらいの勢いで」
「それで急に毒の再勉強を始めたんですか」
後ろから声がした。
「わっ! カル! なんでボクタチに追いつけるの?! 足遅いのに」
シャルの弟であり、エリアスの兄であるカルニアは、バイクに乗っていた。
「普通に歩いては追いつけないので、乗り物を使ってみました」
そしてにこにこと笑う。
「フェイテル様とデスティニー様が復活したって本当ですか?」
意味ありげな笑いは止まらない。あふれんばかりだ。
「んー。本人かどうかはまだわからないよ。寝てるし」
シャルの手の中で小さな二人は、くぅくぅと寝息を立てている。
「ではぱぱっと確認しましょう。データ採取☆」
カルニアが手を伸ばす。その手をエリアスが掴んで止める。
「なんで邪魔するんですかぁ?」
「気に入らん」
「それだけの理由で邪魔するんですかっ!」
カルニアは情けない声を出した。それでもエリアスは手を緩めない。
「カル、うるさい。起きちゃったらどうするの」
シャルも諫める。
すると、ぱたぱた、と音がして、それからのんびりとした声も聞こえた。
「あら…シャル、カルニア、エリアス。
いつの間にそんなに大きくなったのかしら?」
シャルの手のひらの上の、小さな司がこちらを見て、にこり、と笑った。
「ベータ。お前に聞きたいことがある」
ぽつりと、エリアスが呟いた。
「何故、そこまでカルニア…いや、ヴァイザに尽くしていられるのだ? おそらく
お前は、奴の非道な行いをずっと見てきていると思うのだが。それなのに何故」
そう問いかけると、浅黒い肌の長身の男は、エリアスのほうを振り向いた。
「騎士とはそういうものだからだ」
迷いのない瞳が、まっすぐにエリアスを貫く。
「…」
エリアスは言葉が返せない。
「貴方はもともと冒険者か傭兵だったか…でも今の貴方は騎士。なにがあっても、
今、仕えている王に従わなくてはならないのだ」
そう。
エリアスは、合同宿舎のある世界では、ゲイルナーディアという国の女王に仕える
8番隊隊長なのだ。
「騎士とはそういうもの…」
口の中でベータの言葉を反芻するエリアス。しかしふと自分の考えを発見して、
視線を上げた。
「だが、王が明らかに間違っているとしたら、それを指摘するのも部下の役目では
ないのか?」
「明らかに間違っていると判断しなかった。私は」
ベータの言葉には迷いがない。
「なぜそこまでヴァイザを信用する…人を追い込んでは復旧させ、再び追い込むと
いうことに、少しでも義があったとでも、本当に思っているのか?」
迷いが多いエリアス。そこまで自らの道を確信している相手にどう対応していいのか
わからない。
「……義は無いだろうな。ただの復讐だ」
沈黙の後、ベータは苦々しく言った。
「復讐…全く関係ない人々を苦しめるのが復讐か? あいつが邪霊になった経緯は
一応知っている。だが、それはあいつを罠にかけた人々だけが滅びを経験するだけで
充分だろう!」
「貴方は純粋な邪心だからわからないのだろう。罠にはめられて、人類の全てを
憎しみの対象にしてしまう、人の弱さが」
人の弱さ?
エリアスは口だけを動かしてそう問い返した。
「私も主から貴方の邪心としての覚醒の話を聞いている。とても不思議だった。
なぜ、貴方が守ろうとした故にとった行動を責めた相手を憎まなかったのかと。
そればかりか、わざわざ邪心となって、人に倒され、消えてしまおうと
思ったのか、そのために配下や弟とも呼べる存在を殺せたのか」
エリアスの生い立ちは特殊だ。
邪霊シェイドとして生まれ、体と心を分離され、体はシェイドの配下たちがなんとか
取り返したものの、心は人に転生されていた。
その心がエリアス。
邪霊の復活を聞いて、それを止めるために冒険者になり、それから心の転生を
行なった一族と出会い、傭兵になって――だが、ベータの言うとおり、
雇い主を守るため、敵からのスパイを殺し、絶縁された。
その後、シェイドの部下から真実を知らされ――とった行動は
とても怪奇なものであった。
「…わからない…… 思ったとおりに行動した、それだけだ…」
エリアスは視線を落とし、力なく言う。
「おそらく部下がおとなしく貴方に殺されたのは、忠義ゆえ。一騎士としては、
その部下の思いを無駄にはしないでもらいたい」
「無駄にはしない…?」
エリアスは顔を上げた。
「部下は、邪霊シェイドの復活を望んでいた。しかしわざと殺されることを貴方は
選択した。それを部下はおとなしく飲んだのだろう? あくまで、主である貴方の
ために」
「……」
「今、貴方が生きているのは、フェイテル様かデスティニー様、いずれかの意思
だろう。結果的に貴方の意思は通らなかった。だからこそ、貴方に生きてほしいと
願っていたはずの部下のことを考えてほしい…
少し話しすぎてしまった。無礼を詫びる」
エリアスはぼう、とベータの話を聞いていた。
頭の回転が悪い彼には、少々難しい話だったのだ。
「俺を信用…。ずっと敵同士だったから、そんなことを彼らが考えていたなんて
思いもしなかった。確かに俺は今、生きている。それに応える…
俺はどうしたらいいのだろう?」
ベータは首をかしげた。無表情のまま。
「それでは困る。主がしっかりした道を持っているからこそ、部下は主に忠義を
尽くせる。今、貴方に邪霊の部下はいないが、人間の部下はいるだろう。
その者たちのためにも、自分がどうあるべきか、自身の力で決めてほしい」
エリアスはじっとベータを見ると、そうか、わかった。と答え、自分の話に
つきあってくれたことに礼を言い、立ち去った。
「もし…俺にあのときの部下たちが帰ってきたら…なにをしてやれるだろうか」
「今は女王に仕えていることだけを考えていた…8番隊の皆が俺を信用して
ついてきてくれるなら、その気持ちは裏切ってはいけない」
ひとり、夜の丘の上でぽつりぽつりと呟くエリアス。
ふと上を見上げると、小さな双子星が見えた。
ぽつりと、エリアスが呟いた。
「何故、そこまでカルニア…いや、ヴァイザに尽くしていられるのだ? おそらく
お前は、奴の非道な行いをずっと見てきていると思うのだが。それなのに何故」
そう問いかけると、浅黒い肌の長身の男は、エリアスのほうを振り向いた。
「騎士とはそういうものだからだ」
迷いのない瞳が、まっすぐにエリアスを貫く。
「…」
エリアスは言葉が返せない。
「貴方はもともと冒険者か傭兵だったか…でも今の貴方は騎士。なにがあっても、
今、仕えている王に従わなくてはならないのだ」
そう。
エリアスは、合同宿舎のある世界では、ゲイルナーディアという国の女王に仕える
8番隊隊長なのだ。
「騎士とはそういうもの…」
口の中でベータの言葉を反芻するエリアス。しかしふと自分の考えを発見して、
視線を上げた。
「だが、王が明らかに間違っているとしたら、それを指摘するのも部下の役目では
ないのか?」
「明らかに間違っていると判断しなかった。私は」
ベータの言葉には迷いがない。
「なぜそこまでヴァイザを信用する…人を追い込んでは復旧させ、再び追い込むと
いうことに、少しでも義があったとでも、本当に思っているのか?」
迷いが多いエリアス。そこまで自らの道を確信している相手にどう対応していいのか
わからない。
「……義は無いだろうな。ただの復讐だ」
沈黙の後、ベータは苦々しく言った。
「復讐…全く関係ない人々を苦しめるのが復讐か? あいつが邪霊になった経緯は
一応知っている。だが、それはあいつを罠にかけた人々だけが滅びを経験するだけで
充分だろう!」
「貴方は純粋な邪心だからわからないのだろう。罠にはめられて、人類の全てを
憎しみの対象にしてしまう、人の弱さが」
人の弱さ?
エリアスは口だけを動かしてそう問い返した。
「私も主から貴方の邪心としての覚醒の話を聞いている。とても不思議だった。
なぜ、貴方が守ろうとした故にとった行動を責めた相手を憎まなかったのかと。
そればかりか、わざわざ邪心となって、人に倒され、消えてしまおうと
思ったのか、そのために配下や弟とも呼べる存在を殺せたのか」
エリアスの生い立ちは特殊だ。
邪霊シェイドとして生まれ、体と心を分離され、体はシェイドの配下たちがなんとか
取り返したものの、心は人に転生されていた。
その心がエリアス。
邪霊の復活を聞いて、それを止めるために冒険者になり、それから心の転生を
行なった一族と出会い、傭兵になって――だが、ベータの言うとおり、
雇い主を守るため、敵からのスパイを殺し、絶縁された。
その後、シェイドの部下から真実を知らされ――とった行動は
とても怪奇なものであった。
「…わからない…… 思ったとおりに行動した、それだけだ…」
エリアスは視線を落とし、力なく言う。
「おそらく部下がおとなしく貴方に殺されたのは、忠義ゆえ。一騎士としては、
その部下の思いを無駄にはしないでもらいたい」
「無駄にはしない…?」
エリアスは顔を上げた。
「部下は、邪霊シェイドの復活を望んでいた。しかしわざと殺されることを貴方は
選択した。それを部下はおとなしく飲んだのだろう? あくまで、主である貴方の
ために」
「……」
「今、貴方が生きているのは、フェイテル様かデスティニー様、いずれかの意思
だろう。結果的に貴方の意思は通らなかった。だからこそ、貴方に生きてほしいと
願っていたはずの部下のことを考えてほしい…
少し話しすぎてしまった。無礼を詫びる」
エリアスはぼう、とベータの話を聞いていた。
頭の回転が悪い彼には、少々難しい話だったのだ。
「俺を信用…。ずっと敵同士だったから、そんなことを彼らが考えていたなんて
思いもしなかった。確かに俺は今、生きている。それに応える…
俺はどうしたらいいのだろう?」
ベータは首をかしげた。無表情のまま。
「それでは困る。主がしっかりした道を持っているからこそ、部下は主に忠義を
尽くせる。今、貴方に邪霊の部下はいないが、人間の部下はいるだろう。
その者たちのためにも、自分がどうあるべきか、自身の力で決めてほしい」
エリアスはじっとベータを見ると、そうか、わかった。と答え、自分の話に
つきあってくれたことに礼を言い、立ち去った。
「もし…俺にあのときの部下たちが帰ってきたら…なにをしてやれるだろうか」
「今は女王に仕えていることだけを考えていた…8番隊の皆が俺を信用して
ついてきてくれるなら、その気持ちは裏切ってはいけない」
ひとり、夜の丘の上でぽつりぽつりと呟くエリアス。
ふと上を見上げると、小さな双子星が見えた。