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定期更新型ネットゲーム「Ikki Fantasy」「Sicx Lives」「Flase Island」と「Seven Devils」、「The Golden Lore」の記録です。

カテゴリー「定期日誌」の記事一覧
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一行は黙々と歩く。
完全な狼の姿となったフォーゼがくんくんと地面の匂いを嗅ぎながら、先頭を行く。
その後ろはカルニア。そして、それを守るようにベータが隣に歩いている。
エリアスはその後姿を凝視。
なにかカルニアが不審な動きをしたら即止められるようにだ。
そしてしんがりを務めるのはシャル。というか、とろとろ彷徨う魂を
捕まえまくっている。エリアスはこっちも見張るべきだと思われるのだが。

「むさい」
不意に、シャルがぽつりと呟いた。
「え? 私は子供だからむさくないですよー」
カルニアが言うが、シャルはぶんぶんと首を振り、むさいむさいと
こちらこそ子供のように駄々をこねる。
「だったら、お前が女っぽくすればいいだろう」
エリアスが無理を承知で言い出す。
「そりゃ、ボクが女装したら、この集団はちょっとは華々しくなるかもしれない。
でもボクがその華やかさを楽しめないんだよ!」
…シャルにとっては無理な話ではなかったようだ。
「やっぱりフェイテルサマは必要だったんだよ!」
「そんなくだらない理由で邪司を肯定するな!」
エリアスはそう言って怒ったが、ふいにフォーゼが言う。
「気がついていないのかい、エリアス君。シャル君がフェイテル様を復活させようと
 していることに」
「な、なんだと…?!」
エリアスは顔を青くして、シャルのいる後ろを振り向いた。
「本当なのか?」
「違う違うー。ちょっとした実験だよ。キニシナイキニシナイ」
むう。
エリアスは呟いて、シャルをじっと見つめる。
真実の瞳。
エリアスには偽りを破壊して、真実を見極めることができる…筈なのだ。
ちなみに、今まで成功したことはほとんどない。まだまだ未熟なのだ。
シャルはにこにこしている。
(この笑顔…怪しいな)
そう思ったが、確信が持てないので、口にすることはできなかったエリアス。
その脳裏にデスティニーの姿が浮かぶ。
(お前にならできる。偽りを破壊するのだ。
 それが真実の邪心と呼ばれる所以なのだから)
(できているか自信がないぞデスティニー…)
見つめながら、ため息が漏れる。
「じゃあさ! みんなで女装しようか!」
シャルは突拍子の無いことを言いながら、どん!と携帯型クローゼットを召喚した。
「大きいサイズから小さいサイズまであるよ!」
ばっとクローゼットを開けると、中には煌びやかなドレスが並んでいた。
絶句する一同。
「冗談は寝てから言おうか」
フォーゼが冷たく言った。
「おい、言うのか…」
「不正義様に下手なこというと、大変ですよ!」
「なんということだ…」
言葉は違うが、同じニュアンスの言葉が発せられる。
それを聞いたシャルはぷう、と頬を膨らませる。
「じゃあ…サンタクロース!」
しかし、シャルにしては、かなり真っ当な案が出てきた。
「ボクがサンタさんになって、プレゼントと雪を配るから、みんなはトナカイね!」
一同は顔を見合わせる。というのも、皆はクリスマスのことを
知らないからであった。
「え? クリスマスとかサンタクロースとか知らないの?」
きょとん、としたシャルは、その楽しさを語り始めた。


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····· また12日にお会いしましょう!

「やー、4日間飲まず食わずだとさすがにきついネ!」
シャルはそう言って笑った。
「だからこれ食べてくださいと言ったでしょう!」
カルニアは怒り口調で、調理されていない保存食を差し出した。
「にょーん」
意味不明の鳴き声を出すシャル。
「な、なんなんですかいったい…」
「昔からこうではないか。
この島に来た途端、急に猫どころかパンダを被っていたが」
エリアスは冷静に言う。
「へぇ。パンダねぇ…食べるとそれはおいしいのかい?」
フォーゼは相変わらず食べることしか考えていない。
「さすがにそれは知らん…」
困り顔のエリアス。それを見て、コロコロと面白そうにフォーゼは笑う。
「キミは食べなくても生きていけるのかい?」
「いえ、いくらなんでも、食べたことのないものがあるイコール食べ物必要ないと
いう考えはぶっ飛びすぎでしょう」
きっとパンダも食べたことがあるカルニアが指摘した。
「ああ、嫌だ。ここにいる面子は嘘つきばかりだ…」
急にそんなことを言われて、カルニアの目が据わる。
フォーゼもぎらりと目を輝かせる。
シャルは露骨に額に手をやって、あーあー、と言った。
「ダメだよ~。みんな好きでウソついているんじゃないんだから!
エリーだってそうでしょ? 普段、その姿で世界を歩いているときは
人間のフリしてるじゃない。それだってウソなんでしょ?」
そうすると、エリアスはしゅんとした。
「そうだ…本当は俺はただの剣なのに…」
「今日という今日は許せませんね!」
ダン! と音を立ててカルニアが立ち上がった。
「私がただの嘘つきでないことを証明してみせます!」
なにがはじまるのか。シャルはお兄さんぶってエリアスを説得していたのだが、
好奇心が勝ち、自分の仕事を放棄した。そしてカルニアの次の言葉を待つ。
「私の分身に嘘をつくのが苦手な者がいるのです。分身なのにですよ。ですから
私だって嘘が苦手な面もあるということなのですよ。さあ! 今度の遺跡は彼と
付き合っていただきます。来なさい、ベータ!」
えー、今回くじ引き無しー? とシャルは言ったのだが、それ以上に大きな音を
立てて、どさっとその者は現れた。
巨大な甲冑に身を包み、それをも隠すように大きなマントを羽織っている男だった。
「参りました」
「さあ、今回はあなたと一緒に遺跡に潜りますよ!」
「お言葉のままに」
「やあ、忠実な兵士そのものじゃないか」
ベータと呼ばれた大邪霊の言葉遣いに、フォーゼは感心して言う。
逆にシャルは
「この人硬そうだな~」
と、ぷうと口を膨らませて言った。

「まあいいや! 残りの人はー、どうしようかな? アレ? みんないない」
他のカルニア配下の大邪霊の姿が無い。
「がおー! ガンマー! デルタちゃーん!」
「ごんが?」
がおが現れた。
しかし他の二人は出てこない。
「ふーん…」
出てこなければ、遺跡に入らない者への罰ゲームを食らわなくてすむ。
そう考えているのだろう。シャルは、こくこくと頷きながら意味ありげな声を出し、
ばっと手を上に振り上げた。
「ウェスターフィールド!」
するとシャルを中心に、魔力の場が広がっていく。
「わあごちそう!」
カルニアが食べる前に
「みっけ!」
シャルはそう叫ぶと、姿を消した。

「ちくしょうが…」
ガンマが苦々しく吐き捨てた。シャルの右手につままれている。
「なんということでしょう。隠れても無駄なのですね」
デルタは左手でつままれている。
二人をどさどさと落とすと、シャルは
「いえぃ☆」
と、勝利のポーズを決めてみせた。
「この間はよくもやってくれたな。動けなくて超不便だったんだぜ!」
「ウン、よく聞こえてた。ずっと怒ってたよね。すごいよね。人間は怒るのにだって
パワーを使うのにね」
「オレサマだって使うわ!」
シャーッ! 噛み付くようにガンマは怒鳴る。
「だったらやめればいいじゃない? エネルギーを使うのを嫌うのがカルの一族だと
思っていたんだけど」
「それとこれとは話が違う!」
「諦めなさい」
ぽん、とカルニアがガンマの肩に手を乗せる。
「この人になにを言っても無駄です。時間とエネルギーの無駄ですよ」
ガンマは改めてシャルを見る。
「ふふふふふーん♪」
歌いながら回っている。
「はあ…」
ため息。確かに人の話を聞いていない。
「じゃあ、せめて動ける姿に…」
「幼くなっちゃえ~!」
ガンマが要求しようとした瞬間、シャルは魔法を発動させた。
すると、2人と1匹の大邪霊は、子供の姿になった。
「カワイー!」
シャルは叫び、ガンマを抱き上げる。
「やめろ、こら!」
ガンマはじたばたするが、無駄にでかいシャルには抵抗できない。
シャルはガンマをなでなですると、
「これなら動けるよネ!」
と言って、下ろした。
「さあ! みんな行くぞー。すぐ行くぞー!」
そしてぶんぶんと手をふりまわすと、シャルは洋々と魔方陣に向かって歩き始めた。


····· 内容が…

デルタの昔話・2
----------
自分の住んでいた集落から、飛ばされた少女。
「ここはいったい…?」
辺りを見渡すと、自分の集落があった都市とは違うが、
大きな都市がそこにはあった。
「なーん」
自分の手元に黒猫が現れる。
よく見ると、その猫は真っ黒なだけではなくて、金の瞳を持ち、
首に赤いリボンをつけていた。
黒猫は少女から離れて、都市のほうへ歩いていく、
いや、歩いていこうとしたのだが、途中でコテン、と倒れた。
少女が手に痛みを感じたのと同時であった。
「……」
猫が恨めしそうに少女のほうを見る。
「………」
少女はわけがわからないので、ぽかんと黒猫を見つめ返す。
『私と融合したのだ。汝と私は離れることができない』
その言葉を聞いて、はて、と少女は考えた。そして痛みを感じたところを見ると、
そこには黒猫の尻尾がくっついていた。
「……」
少女は試しにその手を持ち上げてみる。
「なっ」
猫が人間語らしきものを発したが、おそらく「なーん」の短縮形だろう。
ぷらりと、黒猫は少女の手からぶら下がる形になった。お互い引っ張られて
痛いはずなのに、少女は面白がっているのか、手を左右にゆらゆらと揺らす。
それに対して猫はゆらゆらと尻尾の先端が動かされるので痛そうな声をあげる。
「痛いのですか?」
1分ほど遊んでから、ようやく少女は黒猫に尋ねた。
「にゃう!」
猫は怒っている。
それに少女はうろたえることなく、猫を両手で抱えて、自分の肩に乗せた。
「この都市に興味がおありなのでしょう? わたくしも一緒に行かないといけない
体になってしまったのですね。それだったら、最初からそう言ってくだされば
よかったのに」
そう言いながら、都市へ向かっていく少女。
しかし都市が近くなり、人が見えてくると、猫は姿を消していた。
「…?」
おや、と少女は思ったが、たいして気にせず、そのまま都市へ入っていった。

都市は広く、同時に高かった。
幸運なことに、通貨は同じだったため、困ることなく少女は生活ができそうだった。
そこには、様々な人がいた。騎士、狩猟者、精霊使い…そして、彼女と同じ、
魔的存在と融合したものも多かった。
「もしかして、ここにはわたくしと同じ境遇の者が多いとわかってここに住むように
仕掛けたのですの?」
人手の無いところで聞くと黒猫は現れて、偉そうに、なぁん、と鳴いた。

そんなある日のことだった。
なにかの声が頭の中に響き渡った。一瞬黒猫かと思ったが、それとは全く違う、
優しい声色だった。
「誰も私を許さない」
「?!」
普段動揺などしない少女も、さすがに驚いて、辺りを見回した。
「可哀想に。本当はあなたは優しい子よ。あなたに力を与えましょう。
この力であなたは孤独から解放されるわ」
「力…ですの?」
しかし次の瞬間には淡々とした調子に戻っていた。先ほどの動揺は
――本心を見抜かれたと思ったからだ。
「そう。いつかこの世界を救うこともできる力よ」

----------
それを言ってから、にこりとデルタは笑う。
「ネタバレしますと、フェイテル様の声ですわ」
「えー! フェイテルサマが人助け?! ありえない! 明日は槍だね槍!」
「昔の話だろう…」
シャルが素っ頓狂な声を出したので、うるさそうにエリアスは突っ込んだ。
「そか。ウン。それで、それで?」

----------
その声は幻聴でもなんでもなく、少女には世界の邪悪な意思を見る力が備わった。
「まあ…わたくしが正義の味方というのは、
あまり性に合わない気がするのですけれど…」
困ったように上を見る。空は、都市の高さに阻まれて、見えなかった。

それから、何年か時が流れた。
たまたま通りがかった小屋の前で、和気藹々とした声を少女は聞く。
小屋をそっと覗くと、数人の男女が、カードで遊びをしていた。
知らない遊びだったが、そこの雰囲気が気に入ってしまい、気まぐれで
顔を出すようになった。
そんな彼女を、その小屋の人々は受け入れてくれ、少女はじーっとその遊びを見て
時間を過ごすようになった。
人のぬくもりを知らなかった少女はやがて、気まぐれではなく、
毎日のように入り浸るようになる。
そして、知らない感情をある人に抱くようになる。
死ぬまで彼女が知ることの無かったその感情は、「恋」だった。

その人は温厚で、誰にも優しく面白く。少女の知らないものをたくさん持っており、
それを少女にも向けてくれた。
最初は向けられる感情が嬉しくてたまらず、他の人にも向けることも
それがその人の良さなのだと思っていたのだが、
いつの間にか、それを独占したいと思うようになっていた。
世界の邪悪な意思を見る力が無ければ、あっという間にその意思に
取り込まれるほどに。幸運なことに、意思を見る力には、
邪悪な意思を跳ね除ける力もあったのだ。だが。
その力を持つきっかけも様々で、ほとんどの者が自分の経験から手に入れていた。
やがて、与えられただけの少女は、与えた者の気まぐれでその力を失ってしまう。
そこから彼女が堕ちるのは、あっという間だった。

----------
「ん… ん?」
カルニアが声を出した。デルタは一瞬沈黙したが、にこりと笑って、
これでおしまいですわ、と言った。
「カル、ひどいよひどいよー! なんで昨日の戦いで
復活付与してくれなかったのー!」
何事も無かったかのように、カルニアを責めるシャル。
シャルの肩から下ろされたカルニアは目をこすりながら、
どこかぼけーっとしながら答えた。
「ふっかつふよ…ふっかつ…復活、ですか?
 いや、当たり前ではないですか。私、寝ていたんですけど…」
「ホントに寝てたの?!」
嘘つきは信用できないよ! シャルはそう言いたげにカルニアを見ている。
しかしそれは悲しいが本当のことなのだ。
――そうでなければ、デルタが自分の前世の話など、するはずがないのだから。

(この悲しいエンディングが破壊されますように。
最悪と、悲哀とどちらに果たして転ぶのか。)


····· 最後まで話せなかった

デルタの、昔話。
--------------
昔々。
ある集落に一人の少女が住んでいた。
歳は14。しかし大人びて見えたらしい。
特徴は深紅の髪。本人も気に入っていて、長く、長く伸ばしていた。
そしてなにより、血が好きだった。
集落では牧畜をしており、牛や豚が解体されることがよくあった。
それが行われることになると、どこからともなく聞きつけてきて、
少女はその様子を、目をきらきらさせて見ていたという。
なので集落の者の中には、彼女がいつかなにかをやらかすのではないかと
心配していたらしい。

そしてちょっとした事件が起きた。
集落の中で飼われていた小動物がバラバラにされて発見されたのだ。
ちょうど時期は冬で、食べ物が少なくなったころだ。
可愛がっていたものが殺されて、人々は悲しんだ。
しかし、少女だけはにこにこと笑っていた。
そこで、犯人はその少女ではないかという噂がたった。
最初は口々に囁かれていた程度だったが、実際に聞きに言った者が出たのだ。
その結果、彼女はあっさりそれを認める。
「このままではみなさんが餓死してしまうでしょう?
 ですからわたくし、食料を調達してきたのですわ」
そう言った彼女は背に籠を背負っていた。
そこには野生の動物が血みどろになって入れられていたのだった。

もともと少女は両親を失っており、親しくしている集落の人間もいなかった。
だから余計に不気味に見えたのであろう。
集落の者たちは、彼女を露骨に避け始めた。それでも――
彼女は笑っていた。

次第に状況は悪化する。
行方不明者がぽつりぽつりと出てきたのだ。
昔から行方不明になることは無かったわけではないのだが、
その頻度が上がってきたのである。
それも少女がやっているのではないかと、人々は囁き始めた。
その噂に対しては、少女は首を振る。
「わたくしは、人に手を出したりはしませんわ」、と。
それでも今まで彼女がやってきたことがやってきたことだったので、
彼女への疑いのまなざしは余計に厳しくなった。
結果、もう、集落へ入ってくるな、と宣言されたのである。
それを聞いた彼女は――やはり動揺することなく、笑っていた。

それから彼女は集落の外へ住処を作り、そこに住んでいた。
そして発見する。
住処の近くに一匹の黒猫が住んでいることを。
ある日、外の用事があったのか、一人で集落から出てきた人がその猫に
吸い込まれていく様子を。
彼女は、立ち上がった。

---------------
「ちょーっと待って!」
シャルがデルタの話に乱入した。
「その後の話、フェイテルサマに聞いたことがあるかもしれない。
 少女が黒猫に近づいて、食べられちゃって、おなかのなかでその猫の分身と話し
 して、合体☆しちゃうんじゃない?」
それを聞いて、デルタはまあ、と口に手をやる。
「簡単に言うとそうです。フェイテル様、そんなこともご存知…
 いえ、ご存知でしょうね」
納得したかのように呟く。
「でもね、ボク、その話には疑問があって。
なんでそんな凶暴な猫のことを、少女は好きだって言ったのか。
それがわからないんだ」
そう言って小首をかしげるシャルに、デルタはくすくす、と笑いを漏らした。
「簡単なことですわ。少女は本当は人が大好きだったのです。
その人たちのために狩りをしたりしていたのですから。
そしてあの黒猫は寂しくて人々を捕らえていたのですけれど、
普通に生きていける環境を作り出していた。
だから、黒猫も人のことが好きなんだと解釈して、自分と変わらない、
うまく表現できないけれど人が好きなんだ、この子なら自分が伝えられなかった
人々への気持ちをわかってくれる、と思ったのでしょう」
まるで自分のことのように話すデルタに、シャルは首を傾げ、
フォーゼは食べちゃえば良かったのにと呟き、エリアスは悲しげに目を伏せた。
「ところでフェイテル様はどこまでお話しをされたのです?
 おそらく最後までは話しておられないと思うのですけど」
その問いには首を傾げたままのシャルが答える。
「合体☆のところまで。そのあと、少女はどっかに飛ばされてしまいましたさー、
って言ってたカナ?」
そう言って首を正位置に戻す。銀の髪がさらりと揺れた。
「………」
デルタはその様子を見て、しばし沈黙した。
「… 続きを話す前に、ちょっとわがままを言っていいですか?」
「ん? なに?」
シャルは純真無垢な子供のように澄んだ目で問い返す。
「…… シャル様の髪、編ませてくださいませんか?」
その声は、先ほどとは打って変わって、いや、普段からは全く想像できないくらい、
小さな声だった。
「いいよ? でもなんで?」
「秘密ですわ」
「ま、いっか。痛くしないでね?」
デルタがまともに答えられなかったのに、シャルはあっさり了解して、
デルタの横に歩いてきた。
「ありがとうございます」
そしてシャルの髪に手を伸ばす。
銀の髪を編み出したデルタは、普段の笑顔とは質の違う、幸せそうな笑みを、
浮かべていた。

「では続きをはじめましょうか」


····· デルタってさ。

魔法陣をくぐると、カルニアが走行雑草に踏まれていた。
「あーあ」
シャルはそう言うと、つんつんと遠くから棒でカルニアを突っついた。
しかしカルニアはぴくりとも動かない。
「………」
「…………」
他の一同は沈黙したまま顔を見合わせた。
それから一斉にシャルへと目をやった。
「あー、やっぱりボク?」
死んだふりをしているのだろうから、血液を持つものが近づくのは危ない。
だからシャルに期待が集まるのである。
「私でもいいですよ。今のお父様なら、私でも持ち上げられます」
デルタが申し出る。
「あー、それはだめだめ! 位の面からも、性別の面からも!」
まあ。
デルタはまた口元に手をやる。
「性別なんて関係ないですわ。私、昔から重いもの運んでいましたし。
嬉しいですけれど、位を考えていらっしゃるのに、
どうしてだめという結論に達するのです?」
位が下の者が雑用をするべきだ。下の者は上の者に使役されるべきだ。
これがカルニアの教え。だから、デルタには何故シャルがだめと言ったのかが
わからなかった。
「上の者が部下をかわいがるのは当たり前でしょ?」
逆にシャルは位が上の者が責任をとり、率先して動くということを信念としていた。
だから、シャルが発した言葉を聞いて、デルタは再びまあ、と言うことになる。
「あなたは最高位の邪心ですよね? そのあなたが部下を全て可愛がり、
責任を取り、率先して動くなんてことをしたら、体が足りませんか?」
「まあそこらへんは、テキトーにやってるよ!」
シャルはカラカラと笑い、カルニアを肩に担いだ。カルニアは薄目を開けたが、
すぐに閉じて露骨に寝息を立て始めた。
「言っちゃえば、カルのやってることだって、フォローする必要もあるしね。
寝たふりしてるのか、ホントに寝ちゃうのかは知らないけど、
今回は担いで行ってあげようっと」
「そうですか…」
デルタはそう言って、シャルの銀髪に目をやると、頬を染めた。

遺跡の中を淡々と歩いていく。
ただ、ひたすらに歩いていく。
「あー、もうタイクツ!」
「歩くたびに戦闘が起こるよりいいと思うんだけどな」
フォーゼがシャルをなだめる。
「最近は、斬りたい衝動も抑えられてきた…」
そう言いながら、エリアスは普段使っている剣の鞘で近場の草をなでた。
「言っていることとやっていることが違うねぇ。そんなことしていたら、
刺激されて遺跡の住人がでてきてしまうかもしれないよ?」
注意するフォーゼ。
「…カルニアが寝ていてよかった。奴だったらきっと嫌味たっぷりで
指摘してきただろうからな…」
エリアスは素直に忠告を聞き、鞘をベルトにひっかけた。

「それでは、お話をいたしましょうか」
デルタが言い出した。
「お話し?」
シャルが興味津々そうな声で問い返す。
「ええ。昔々、愛するものがいながら狂って死んだ女の話ですわ」
「む…」
エリアスがなにか言いたげに声を出したが、言葉が続かない。
フォーゼはひょことデルタに並んで、僕は聞きたいな、と言った。
するとデルタは悲惨そうな内容を話をしようとしているのに、にこにこと笑って、
話を始めた。

····· チキレ負け

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