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定期更新型ネットゲーム「Ikki Fantasy」「Sicx Lives」「Flase Island」と「Seven Devils」、「The Golden Lore」の記録です。

カテゴリー「定期日誌」の記事一覧
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「黒ですわ」
デルタが黒い印のついた棒を持って喜んだ。
赤い印のついた棒を手にしたガンマはがっくしと肩を落としている。しかし同じく
『シャルのおもちゃの刑』が決定したベータは淡々とその棒の先端を見つめている
だけだ。
「おお、女の子! デルタちゃんだっけ?」
シャルは大きな声で言う。とはいえ、別に異性だから喜んでいるというわけでも
ないのである。
「はい。わたくし、デルタですわ。よろしくお願いいたしますわね?」
スカートをちょんとつまんで、デルタは礼をする。
セミロングで、ふんわりと内側にまとめてある赤髪が、さらり、と下に下がった。
「えーっと。カルが前に言っていたんだけど。カルと一番似ているんだって? 
『考え方は一番私にそっくりなんですよぅ。ですから私と同じ扱い方で
いいですからね』とか言ってた!」
すると、デルタは口元に手をあてて、まあ、と呟く。
「わたくしは、お父さまみたいに何でも作れたりはしませんわ。血液を媒介にする
魔術をお父さまから受け継いでいるだけですの。考え方も、お父さまみたいに
難しくはありませんわ。ただ、データがほしいだけですの」
そう言って、シャルに触れる。
しばらくしてから、驚いたように目を若干見開いて、一歩後ずさった。
「まあ! 貴方は血液がありませんの?」
「まあね。血液の必要性がないから、無いの。カルニアと初めて会ったときと
反応が一緒だー」
シャルはテンションが低めになった。かちゃりと金属音がする。
「やめてくれ。そいつ斬ったら血がどばーで、土壌汚染になっちまう」
ガンマがエリアスに言った。エリアスはガンマのほうを向いて、不思議そうに、
どうして俺のやろうとしたことがわかった? と尋ねる。
「そりゃ、カルニアと同じ扱いをするだろ。あんたのことだからさ。
気に入らなかったら斬る、っての、やめろって言われてたのに治らないのな」
ガンマは相手に言った後、口の中で、ま、それが破壊の邪心なんだろうけどな、と
補足した。エリアスは気まずそうに、ついと視線を逸らす。
「僕のデータが欲しいのなら、採っていいよ。どういうふうに採るのかのほうが、
興味深いからね」
フォーゼがそう言って、デルタに腕を差し出した。
「こーらー。自分の安売りはいけないんだぞー」
シャルが言うがフォーゼはにこり、と笑って小首を傾げるだけだ。
「そうそう…お父さまのように、手に入れたデータを自分に還元することも
できませんの。ただ――」
ゆっくりと言いながら、フォーゼの手を優しく握るデルタ。
「血液をいただいた方を操ることならできますわ」
「ふうん」
きらり、とフォーゼの瞳が光る。いや、ぎらり、と言ったほうが正しいか。
「じゃあ、僕を操ってごらん?」
その言葉にデルタは視線をあげ、にっこりと微笑んだ。
「わたくしより強い方は操れませんわ。それを知らずにやってしまって、昔、
酷い目に遭いましたもの」
「ふうん…その笑い方、その物腰…。僕はカルニア君より、フェイテル様に
似ていると思うけどね」
まあ。またデルタは口元に手をやった。
「お褒めいただき、光栄ですわ」
「ったく…」
そこに乱入するのがガンマだ。
「酷い目じゃ済まねぇだろ。化け物にされて、狂って死んだじゃねーか」
すると、ガンマのほうを向き、困ったような顔で笑う。
そんな笑い方を見たことが無かったガンマはどきり、とした。
「でも…その死にかけで、とても大切なことを思い出しましたわ」
「……」
前世か。ガンマは察した。
カルニア、いや、ヴァイザと言うべきか。彼の駒に過ぎない偽りの大邪霊にとって、
大切なものと言えば、前世くらいなものである。
だがそれは決してヴァイザに穢されることなく、持っていられるものであった。
「ふふっ…」
デルタは笑うと、フォーゼから離れ、魔方陣のほうへ歩いていく。
「さあ、お父さまを追いかけましょう?」
「あ、待って待って。ボクはまだ、残りの3人で遊んでない!」
シャルは慌てて目を閉じ、こめかみをトントンと叩いた。
「あー、じゃあ、今回はこれでいいや。ボクの人形になれ!」
するとぽふ、ぽふぽふと音がして、ガンマ、ベータ、がおの3名…? は
ぬいぐるみになって地面に落ちた。それをさっと集めたフォーゼは、
木の陰にそれを並べる。
「うわー。クレームがガンガン聞こえるよー」
「そうなのか?」
精神に過敏だからか、それとも文句を言うべき相手だからか。
シャルにしか、ぬいぐるみ(おそらくガンマ)のクレームは聞こえないようだった。
「まあいいや。さあ、探検に行こう!」
そうして4人は、カルニアが踏んでいった魔方陣へ足を運ぶのだった。

フェイテル消滅、2日目。

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····· この調子だと…

「動かなくなっちゃった…」
シャルは呆然と二人の司を見ていた。
「これは…データ採取のチャンスですね! そして私は司になる!」
こんなときにもカルニアは欲望丸出しで、すたすたと二人に近づいていく。
しかし、カルニアが触れた瞬間、彼らは光になって消えた。
「あ…」
「カルニアァァァァァァ!!」
エリアスがぶち切れた声で叫ぶ。
「ひぃぃぃぃー!」
悲鳴をあげて、カルニアは走って逃げる。そして、転送魔方陣に乗って消えた。
「おやおや。遺跡に入っちゃったよカルニア君。どうする? 追いかける?」
「放置でいい…勝手に放り出されてくるだろう」
のんびりと言うフォーゼ。それに対しエリアスは冷たく言い放ったが、
シャルはうーんと考えるポーズをとった。
「これからボクたち、どうする?」
その言葉に、破壊の邪心と復讐の邪心は顔を見合わせた。

「まず、ボクたちだけで、合同宿舎との行き来はできるかな?」
この言葉を皮切りに、3人は話しあいを始めた。
と言っても、フォーゼはきょろきょろと食べ物を探してはもぐもぐ食べていたが。
「空間を切り裂くことはできるが…どこと繋がっているかがわからんな」
「(草をもぐもぐしながら)繋がりはたぶん、カルニア君が探れるんじゃ
ないかな? 空間術は僕も若干わかるけれど、彼のほうが専門みたいだし」
フォーゼが言った。
「そうなの? カルってホントに万能だね! 便利便利~」
「アイテムみたいに言わないでくださいませ」
そのとき、声がした。カルニアと似た声色。しかし声のほうを見てみれば、
そこにいたのは深紅の髪をなびかせた少女だった。
「お前は確か、カルニアの部下のひとりだったか…」
エリアスの問いに、にっこりと微笑んで礼をする。
「はい。わたくし、デルタと申します。先ほどの戦いで、お父様の子たちは全て
この島に残っております」
「氷漬けにされたおかげでな!」
いつの間にか隣に来ていたガンマが悪態をつく。
ガンマの身長はかなり低いが、それよりもデルタの身長は低かった。
「お父様のデータ履歴をわたくし、適宜に更新しております。
空間を探る術を持つ者からデータは回収済みのようですわ」
「うげぇ…」
デルタの言葉に、露骨にガンマは嫌な顔をした。エリアスも眉をひそめ、
嫌そうにしている。
「どういうこと?」
ついていけないシャルが問う。
「つまり、マスターは空間を探る能力を持つものの血を吸い、自分の力にし、
さらにデルタはマスターから血を受け取り、どの程度マスターが能力を
持っているのか把握しているということです」
落ち着いた声。
長身の、マントで半身を隠している男が現れた。
「お前…よく平然と解説できるな。オレサマ、血液のやりとり話は
だいっきらいなんだよ」
ガンマは声の主に文句をつけると、シャルたちの方向を見て言った。
「こいつはベータ。カルニアの部下のひとり。ついでに言うと、残り一人は――」
「がうがー!」
黒い物体が走ってきた。知る人ぞ知る、カルニアのペット、
エレアの『がお』である。
「これだ!」
ガンマがエレアの前にひょいと足を差し出した。思い切りそれに激突して、
エレアはごろんと倒れる。そして倒れたまま、じたばたとしている。
「がうがー! がうがーごご? がうがー!」
「あー、はいはい、がおね」
シャルも知っている一人である。よく合同宿舎でカルニアが連れまわし、食べ物
(?)を与えているからだ。酷く悪食で、エネルギーがあればなんでも食べる。
「まったく…フェイテルのおかげで4人揃っちまったじゃねぇか」
「なにか問題でもありますの?」
デルタが小首をかしげる。ガンマはぶつぶつ言っていたが、
「これ以上、メンツが増えたら、オレサマ、戦うこともできねーよ。
なんていうんだ?“邪魔くさい”だったか」
「では俺は守りに徹しよう」
嘆きに対し、冷静にベータは言った。
「ふーん。ふーんふーん」
シャルが一気に賑やかになったその場を面白そうに見回す。
目がきらりん☆ と光った。
「じゃあさ、遺跡に入るのはボクたち4人と、カルニアご一家の誰か一人って
ことにしない? 決める方法は簡単!」
くるりん、と一回転すると、シャルの手には木の棒が4本握られていた。
「これで、黒を引いた人が、着いてこれるの。他の赤を引いた人は――
ボクの実験台になって倒れててね!」
「ふっざけんな! ただ実験したいだけだろお前!」
ガンマの抗議はどこ吹く風になって流された。
「まあ。面白そうですわ」
デルタはクスリと笑って、棒に手を伸ばす。
ベータも黙って、棒を握った。
そして棒を握った二人はガンマに熱い視線を送る。
「~~っ!」
しぶしぶ、ガンマも残った棒のひとつを乱暴につかんだ。
「がおは握れないから、最後の一本ね?」
了解を求めるように、シャルは怪生物に言ったが、エレアはまだ倒れたまま
じたばたしている。

そして、一気に3人は棒を引き抜いた。
「せーのっ!」


····· ウソでしょ?

この島にいる人々の、生きていく力が凝縮されていく


宿命を受け入れるもの
宿命に抗うもの

運命を受け入れるもの
運命に抗うもの

ヒトの数だけ、生き方は違う
考え方は違う





フェイテル。
お前、気がついていただろう?
お前と接したヒトの数は、島にいるヒトの数からすれば、ほんのわずか。
でも、彼らから知りえたことは多かったことに。

僕は知っている。
お前は知らなかったかもしれんが。
運命は変えられる。
お前の運命も例外ではない。回り始めているんだ。

それを自覚させるために僕は来た。
この島の人々の思いが、僕の黒槍には詰まっている。
それを感じ取れ。
たとえその結果、お前が消えたとしても。
いつか運命の輪は再び回り始める。

これは、お前が、宿命を弄ぶことをやめさせる、最後の手段。
ヒトを知れば、そんなことは、もうできないだろう?

だから…
さよなら。フェイテル。





「フェイテル様!」
「フェイテルサマー」
「デスティニー!」
「…フェイテル様」
4人の邪心が駆け寄ってくる。

二人の司はかなり接近した位置取りをしていた。
デスティニーが春の精霊をかき集め、フェイテルとの間を詰めるように、
大地を蹴ったのだ。
そして、大きな黒い槍を作り出し、フェイテルへ投げつける。
それは命中し、小爆発を引き起こした。
闇。
邪なるものから生じるものではない、純粋な闇が爆心地から漂う。
フェイテルは倒れながらも、笑顔を浮かべる。
槍を通して、口下手な弟の考えは、きちんと伝わった。
「デスティ――私を思ってくれていたのね」
満足そうに。
そう。つぶやいて倒れる。
と、それに反応したように、光の槍が数本現れ、デスティニーの体を貫いた。
そして。
そのまま二人の司は動かなくなった。静かな笑みを浮かべたまま。


····· あとがき

―― 空間の中を、世界が飛び回っている ――
―― その中心にあったのは、世界を見守る司の城 ――
―― そこはある日崩壊し、そこから二人の司が去っていった ――
―― ひとりは第二の世界へ ――
―― もうひとりは第三の世界へ ――







「私は動けないの。だから邪霊を呼び出して戦うわ。いいわね?」
その言葉に対する、相手の反応を見ないで、フェイテルは邪心たち、
邪霊たちを呼び出した。
「え…! うわ、わー! デスティニー様だー!」
シャルが悲鳴をあげる。
「か、勘弁してくださいぃ! あなた方の戦いで、私がなんの役にたつと
いうのでしょうかぁ!」
カルニアは以前、デスティニーに罰を受け、氷漬けにされていたことがある。
その恐怖がまだ脳裏に残っているのだろう。本当に情けない声を出していた。
「…フェイテル。俺はこの方とは戦えない」
エリアスはきっぱりと断る。
「ふふ。僕は構わないよ? どんな方か知らないしね」
フォーゼが楽しそうに言うが、カルニアが決死の表情で首と手をぶんぶんと振った。
他にも…
「おう、ベータ。久しぶりだなぁ? 決闘するかぁ?」
「それどころではないと考える」
「そうですわよ。わたくし、血液がない方とは戦えませんわー」
「…司か」
「あ、お父様ー!」
「こらシャル! 何事なのよッ、これは!」
「わーい、遊んで遊んで!」
「シェイド様が駄目というのならば、それに従います」
「危険だということか…とんでもないな」
「マスター、これは何事ですか?」
「ただ事ではないのは理解できたわ」
大邪霊も集まって、うるさいことこの上ない。
他にも大量の邪霊。
それを見ることができるものがいたならば、
この島の外れは闇がうごめく空間に見えるだろう。
「…………」
それに対してデスティニーは黙ってフェイテルを見ている。
そして、ぽつりと呟いた。
「わが身を守るためならば、使役するものの命など関係ない。黒き翼の司らしいな」
「あら。私は白き翼の司よ?」
白々しくそう言うと、フェイテルの腰のリボンがふわりと動いて
白い光の翼に変化した。
それをぼう、と見ていたデスティニーも肩の装飾品を転換させて、黒き翼を広げる。
刹那、黒い槍が邪霊たちの上に現れ、地面へと突き刺さった。
これでたいていの邪霊たちは吹き飛ぶ。
「まあ。私が使役するものたちの命を心配した子が使う術ではないわね。
困ったデスティ」
なんとか生き残った邪霊たちはぴゅう、と、島の中心部に逃げていこうとする。
しかしフェイテルはそれを許さず、無理やりデスティニーの方向に彼らを動かした。
デスティニーはそれに対し、
「近寄るな」
ぽつりと呟いて、結界を自分の周りに張り巡らせた。邪霊たちはそこに無理やり
体当たりさせられ、ぽよん、ぽよんと弾かれている。
それからデスティニーは手を前に突き出し、
「冬の精霊よ」
言霊を口にした。
「やっぱりそれから来ますか!」
カルニアが悲鳴交じりの声で言う。カルニアに連なる大邪霊たちも真っ青だ。
デスティニーはフェイテルのように邪霊を扱うことはできない。
その代わり、ある特殊な精霊を使うことができる。
「逃げますよ!」
カルニアの言葉を皮切りに、欺瞞属性の邪悪な魂たちは逃げ出した。
しかし先ほどと同じようにフェイテルによって引き戻されてしまう。
「ざっけんなテメェ、フェイテルマジぶっ殺す!」
ガンマが悪態をつきながら氷漬けになっていく。他の邪霊たちも同様だ。

すらり。
エリアスが剣を抜いた。
「フェイテル。お前を、斬る」
「まあ。味方として呼んだのに、私を斬るの?」
「斬る」
エリアスの表情は変わらない。愛剣、いや、邪心シェイド本体を手にして、
フェイテルに斬りかかろうとした。
「俺の剣は全てのものを破壊するという。お前の持つ宿命も破壊することが
できるかもしれない」
邪心の能力<司の能力なのは自明の理であるが、エリアスが父に手を出すはずが
無かった。しかし、その前に。
「春の精霊よ」
デスティニーが呟いた。
とたん、フェイテルの足元に生命力が術と化したものが展開されていく。
「デスティ。貴方は私には絶対に勝てないのよ。悪あがきはやめなさい」
「それはこれを受けてから言ってみろ」
「――!」

春の精霊。
辺りの活性の力のことである。
運命を激しくまわす人々があまりにもたくさんいるこの島で
その力を術と化したらどうなるであろうか。
運命は宿命に打ち勝つことも、できるかもしれない。

····· 敗北…

フェイテルはまだ、崖の上に立っている。
その前ではくるくると水晶玉が回っていた。

-----------
大量の司たちに、押しつぶされ、フェイテルは自分の身の危機を感じた。
自分の頭に浮かんだ意思に従い、すい、と手を前に突き出す。
それが狂っているなんて、夢にも思わず。
「無知なひとたち。私は宿命の司。この次元のすべての者に宿命を与えていたのよ。
誰も、私には勝てないと」
言うのとほぼ同時。
光の槍が、司たちの前に現れ、貫く。
悲鳴をあげて転倒する司たち。
そのおかげで、踏み潰されていたシャインが立ち上がった。しかし彼は叫ぶ。
「フェイテル! どうしたんだ! 確かにフェイテルに襲い掛かった彼らも悪いさ。
でも、その槍…、確実に存在を滅するものじゃないか!」
いつも私に話しかけてくれていたひと。
このひとはできることなら、殺したくない。
フェイテルはぼんやり考えながら、うつろな瞳で彼に尋ねた。
「――ルナは何処?」
ごくり。
シャインは息をのんだ。その言葉の意味を察したからだ。
「それは言えない。今のフェイテル、おかしいぞ。少し落ち着いたほうが」
「私は落ち着いているわ」
即答。
それに対し、首を振るシャイン。
「おかしいよ。間違ってるよフェイテル。ルナがなにをしたっていうんだい?」
「教えてくれないのね」
しかし、フェイテルの耳には、自分にとって有用なものしか届かなくなっていた。
その先の記憶は、無い。

-----------
我にかえると、コアは無くなっており、ただただ暗い空間がそこにあった。
正面には、弟、デスティニーが無表情で浮かんでいる。
フェイテルが自我を取り戻したのを察したのか、その口が動く。
「私のせいだ」
「デスティ?」
フェイテルは、この状況を作り出したのが自分だということを
自分の中で納得させるのに苦労しながら、弟に問いかけた。
「私がフェイテルのしていることを相談した結果なんだ」
「そうね」
否定するつもりは無かった。フェイテルの感情が高揚したのは、彼が他の司たちと
交流し、笑顔を浮かべていたのを見たのが理由のひとつだったからだ。
それを肯定することで、デスティニーがなにを感じるのか。それを察することは
フェイテルにはできなかったのだ。
「私は弱かった。もっと強ければこの事態は避けられた」
「あら。デスティは強いじゃない」
フェイテルが言ったのは、力の強さ。
デスティニーが言ったのは、心の強さ。
「もっと我慢強ければ、自分だけで解決できたかもしれない。相談などしなければ
よかった」
「終わったことを悔いても仕方ないわ」
にこ。フェイテルは微笑んでみせる。
しかしデスティニーの瞳は虚ろなままだ。
「相談してしまったのは、奴らを信頼してしまったからだ。全く余計な機能がついて
いたのだな。私たちにはほとんどの感覚がついていなかったというのに」
「いいのよ。そういう機能がついていたということは、こうなる宿命だったという
ことじゃないの」
フェイテルの笑顔は消えない。だが、それに関してデスティニーは責めないし、
自分自身の無表情に関してもなにも言わない。
「こうなった以上、フェイテル、お前の顔を見ていたくは無い。
私はこことは別の場所で、運命を見守り続ける」
「――デスティ?」
笑顔のままのフェイテルでも、なにかがおかしいことに気がつく。普段の彼ならば、
フェイテルのしたことに対して、真っ先に責めて、場合によっては胸倉をつかんだり
するものだと思っていたのだから。
「さらばだ」
ふわり。
デスティニーは去っていく。
「待って。責めないの、私を?」
「責めてもなにも変わらん。お前もそう言っていただろう。そのとおりだ」
「私は貴方と交流があった司も――殺したのよ? なんとも思わないの?」
殺した。その言葉を吐き出すのに躊躇した。しかし、心の動きとは逆に
笑顔を浮かべることが止まらなくなっている。
「思う? そんな余計な感情は捨てた」
笑顔のまま、固まる。
自分のしたことが原因で、弟は感情を捨てたというのか。
心の奥底がもやもやとする。
その感覚がなんなのかフェイテルが考えている間に、デスティニーはふわりと
フェイテルに背を向けて、遠くへ飛び去っていった。

-----------
(デスティ。貴方が感情を捨てたことで表情が変わらなくなったみたいに、
私も笑顔を浮かべることしかできなくなったみたいだわ)
違うのは、弟は自分の意思でしたこと。自分は自然とそうなっていたことくらいか。
そう、弟のことを考えていたときだった。
懐かしい感覚が体を駆け巡る。
すぐさま振り返った。
そこには――

相変わらず無表情の、デスティニーが手に杖を持ち、立っていた。

「デスティ―― また会えた。嬉しいわ」
心からの笑顔になる。何千、何万年ぶりだろうか。
「………」
しかしデスティニーはなにも答えない。
ただ、じっとフェイテルを見つめている。
「この島、素敵でしょう? いろいろなひとたちがいる。私たちの治める世界は
お互い見ることができるけれど、ここには想像を遥かに超えた者たちがいる」
「……た」
かすかに口が動いた。
フェイテルはそれを聞き取ろうと、話すのをやめる。
「お前を、殺しにきた」
「まあ」
フェイテルは水晶玉を抱え込む。
「デスティ。この島は私たちの世界とは違う世界。でもね、ここでも、私が貴方に
課した“私は誰にも負けない”という力は働いているのよ」
にこにことフェイテルは言う。
対してデスティニーは無表情のまま言葉を紡いだ。
「私がいなければ、誰が人々の運命を守るのか。そう言われ、司たちが殺される中、
自分だけは逃げた。だが」
目を閉じて首を振る。
「お前がいなくなれば、私も運命を守る必要がなくなる。本来運命とは完全にヒトの
手にゆだねられるべきもの」
「それで? 相打ちになるつもりなの? 私は誰にも負けない。
相打ちにだってならないわ」
フェイテルには彼がなにを考えているのかさっぱりわからない。
無駄な殺生になりそうなので、止めるように誘導を試みてみる。
するとデスティニーは、すい、と杖を構えて立った。
「いや……この島ならできる。運命を変える強い力を持った者たちが多くいる
この島ならば。その力を借りて、僕はお前を討つ」

これが、最後の戦いの口火を切った言葉だった。


····· ぶらっくがもうダメです

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