定期更新型ネットゲーム「Ikki Fantasy」「Sicx Lives」「Flase Island」と「Seven Devils」、「The Golden Lore」の記録です。
カテゴリー「定期日誌」の記事一覧
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フェイテルは一人で遺跡街から外れた崖の上に立っていた。
すい、と水晶を浮かし、それを覗く。
「私の宿命――それは一人で宿命を見守り続けること。コアを守ること。でも」
-------
「お、本当に外にも司がいたのかー。こんなところでひとりぼっちなんて
寂しくないのか?」
ある日、赤髪が目立つ男の司が、満面の笑みでフェイテルの元にやってきた。
はじめて聞いた、片割れ、デスティニー以外の声。
「寂しく? それってどういうことかしら」
フェイテルは、寂しいという感覚を持ち合わせていなかった。
「へっ?」
そんなことは全く知らない赤髪の司は、間抜けな声を出した。
「なあ、どういうことなんだ、ルナ?」
後ろから面倒くさそうな顔をした、淡い紫の髪の司がやってきた。
「あんたねぇ…知らないことを確かめに行く!とか言って
予習もしてこなかったわけ? 片割れとして情けないわ」
ばさりと髪をかき上げると、彼女はずいっと指を彼に向けて突きつける。
「いーい? あたしたちは、人間とは違うの。それぞれ役割を持ってるでしょ?
例えばあんたは太陽に異常が無いかの管理。あたしは、月に異常が無いかの管理。
で、エンティの世界を見守る他の司と円滑に情報のやり取りができるように、
人間と同じように感情と、一部の感覚が与えられている。でもね!」
つんっ、と眉間に当てた指を押して、赤髪の司を突き放す。
「門番である、フェイテルとデスティニーは、ずっと外で門番をするために存在して
いるの。だから交流する必要もない。感情はあるけれど、感覚はほとんど存在して
いないのよ」
「そうかー。なんか気の毒だな」
くるりと赤髪の司はフェイテルのほうを見ると、再び満面の笑みで手を差し出した。
「俺の名前はシャイン。キミは?」
その差し出された手に触れようとして、手をのばしかけるも、フェイテルは止まる。
「ん?」
不思議そうなシャイン。
それに対して首を振り、フェイテルは手を下ろした。
「私はフェイテル。ここの門番。だから、門の中の司とは交流できないわ。
名乗ったのも、貴方が名前を教えてくれたから」
「そんなことないだろ? 門からこうして、司が出てくることもあるんだ」
シャインはフェイテルにそう言って、一歩踏み出した。
「やめて!」
「うーん…」
困った顔の彼。フェイテルは悪いと思い、自分の立場を伝える。
「私たち門番は公平でなくてはならない。特定の誰かと親しくなると、感情的に
なって、もうひとつの使命を怠ってしまうかもしれないの。だからごめんなさい」
「……ほら」
ルナがシャインを引っ張った。
「わかった。これから司のまとめ役の人のところに行って聞いてみるよ、
番人はそれでなくてはいけないのかって」
「全然わかってないじゃない!」
ルナがどつくが、彼はにこ、と笑って、手を振って去っていった。
-------
数日後。
シャインは再びやってきた。
「いやー、デスティニーにも断られちゃったよ」
そう言って彼はフェイテルのほうを見た。
「まとめ役の人に聞いてきた。番人に会うことは、寂しさを感じさせるから
やめたほうがいいって言われた。でも、俺、思うんだ。毎日来ることだってできる。
番人として生まれたからって、誰とも交流しないなんて、宿命付けられているわけ
じゃないだろ?」
シャインの言葉にフェイテルは首を振る。
「宿命付けられているわ。私はここで門番をしつづけるの。
この子がそう言っている」
この子、と言って、持っている水晶を浮かべた。
それを見て、うーんと彼は唸った。
「宿命を司るフェイテルに言うのは悪いんだけどさ。宿命があっても、
そこから自分で歩き方を変えれば、運命が変わるんだろ?
俺と話すこと、それで何か変わると思うな」
デスティニーに聞いたのか。宿命は変えられないもの。運命は変えられるもの。
でも運命によって、宿命を変えることも不可能ではないということを。
しかしフェイテルはどうしても、シャインの手を取ることはできなかった。自分は
番人だから。宿命を司るものだから、宿命を歪めるようなことはできない、と。
-------
何日も過ぎた。
シャインは発言したとおり、本当に毎日やってくる。
それでもフェイテルは頑として意思を曲げなかった。
そして、何年も過ぎて――
「フェイテル。デスティニーと友達になったよ」
シャインには全く悪気が無かったのだろう。しかしフェイテルにとって、その言葉は
衝撃以外のなにものでもなかった。
「フェイテルがここを動ければいいのにな。あ、そうだ、デスティニーとは
時々しゃべってるんだろ? その方法を使って、みんなで話したりしないか?」
フェイテルは目を閉じた。そしてその場で座り込む。おい、どうしたんだよ、という
シャインの声が聞こえたが、どうでもよかった。ずるずると座り込むと、
さらにシャインが心配そうに駆け寄ってきた。フェイテルは下を向く。
涙がとめどなく流れ落ちる。
その中で、フェイテルは幻聴を聞いた。
「姉さん」
「あら、デスティ。貴方から話しかけてくるなんて珍しい」
「シャインって、知っているだろう? 毎日やってきて鬱陶しくて困る。
姉さんはどうしているんだ?」
「心配してくれているのはありがたいのだけど、宿命を背負っている私が、
もし、判断を誤ることがあったら大変でしょう? だから断りつづけているわ」
「そうか…」
私のデスティ。
出会うことはできないけれど、私とだけは話せるデスティ。
ちょっと生意気で、運命なんて見れるから、外の世界のことを私より知っているから
教えてくれる、本当は優しい子。
でも、永い永い時の中で、デスティは私を姉さんと呼ばなくなっていた。それは。
「姉さん。いや、フェイテル。人々の宿命、変えているだろう」
「気がついたの? ええ、変えているわ。面白いのですもの」
「そんなことを…人を悲しませて、なにが楽しいんだ」
「わからない? 苦しんで、助けを求める姿。立ち向かい、
自分で道を変えていく姿。どれもヒトのヒトらしい姿だわ。素敵なの」
「どうしたんだ、フェイテル。僕たちはただ人々を見守るだけが使命ではないか。
宿命を変えるなんて、僕たちの存在意義から遠く離れている」
「だってね、デスティ…貴方は変わるものを見ていられるでしょう?
でも私にはそれが無いの。ずっとずっと、宿命がおかしな力で狂わないか
見ているだけなの。寂しいわ」
「本末転倒だ。そのおかしな力というのが、今…姉さんがしていることなんだぞ」
「ごめんなさい、デスティ。この面白さ、一度覚えてしまうとやめられないみたい」
「フェイテル。やめてくれ。頼む…」
デスティが私に頼みごとをすることは初めてのこと。
でも、私の中に生まれてしまった欲望を止めることはどうしてもできなかった。
それから、毎日話した。デスティは私を責めるような言い方はしなかった。
「フェイテル。大丈夫かい?」
ようやくフェイテルに意識が戻る。
「いきなり泣き出すから驚いたよ。俺、なにか悪いこといっちゃったかな?」
下を向いたまま、フェイテルはふるふると頭を振った。それから涙を拭いて、
笑顔をシャインに向ける。
「確かにデスティとはやりとりできるわ。あちらにも誰かいるのかしら?」
「ああ。ルナと、慈愛の司アルフォン、それから俺たちのまとめ役、
エンティヌスがいる」
大人数に囲まれては困っているだろう。フェイテルはそう予想して、
水晶に力を込める。すると光があふれ出し、水晶にデスティニーの姿が映った。
――笑って、いた。
心の中にあふれ出す黒い感情。フェイテルにはそれがなんなのか
全くわからなかった。しかしシャインにそれを見せるのは絶対に嫌で
すぐに映像を消してしまった。
シャインはフェイテルの異変に全く気がつかなかったようで、デスティニーしか
映らないのかぁ、などと言っている。フェイテルは無理に笑いながら、
彼に話しかけた。
「ごめんなさいね。周りも映るように調整してみるわ。しばらくかかるので、
今日は、もう」
『今日は、もう』はお決まりの言葉だった。シャインにその気が無いから
帰ってほしい時に使う言葉。
それをわかっているシャインは、わかった、というと、そのまま立ち去っていった。
それから毎日、こっそりフェイテルはデスティニーの様子を見るようになった。
先日のような笑顔を見せることはほとんど無かったが、笑う理由がフェイテルには
わかってしまった。
彼は、ルナという司に、心を許している…
(私のデスティ。私の、私の――)
-------
そして。
デスティニーは何かに悩んでいることを司たちに気付かれてしまった。
内容を話すのは拒んだが、少しでも力になりたいと何度も言われていた。
デスティニーの悩みは、もちろんフェイテルのこと。だが自分だけで解決したい。
しかし、限界を感じた。
「僕だけの力では解決できない。本人を説得していたのだが、譲ってくれない。
だから、貴方から言ってもらえないか、エンティヌス」
まとめ役、ということで適任だと思ったのだろう。
しかし周りには他の司たちもいた。
デスティニーから事情を聞いた、その場の司たちは驚いた。
なんとしても止めなくてはいけない。
それから、毎日やってくるのがシャインと、エンティヌスになった。
そのうち、フェイテルのしていることが噂になり、こんなに長時間説得しているのに
解決しないのでは、少々乱暴な手を使ってでも止めなければという言葉さえ
出てくるようになった。
フェイテルは、笑顔で断り続けていた。
まるで人形のように。まるでただの作業のように。
なぜならそれどころでは無かったのだ。
『私のデスティ』が、私のことを話した。
それがショックだったのだ。そんな感情の名も知らないので、
自分でどうしているのかもよくわからないまま。
全ての終わりは、突然にやってきた。
「今日生まれてきた子たちはどんな宿命なのかしら。あら、この子は幸せすぎだわ。
調整しないと」
そしてそれを実行に移そうとした時。
「やめるんだ、フェイテル! って、うわ、どうしたんだよお前たち!」
シャインが飛び込んできた。が、すぐに他の司たちに踏み潰される。
「フェイテル! 司としてお前は失格だ。お前を審判にかける!」
「おとなしくこちらに来てもらおうか。我々はエンティヌス殿のように
改善をゆっくり待つことなどできない!」
「時間が経てば経つほど、被害は広がっていく!」
そんな、騒動にいきなり巻き込まれて。
今まで少しづつ溜まっていた何かが。
黒い何かが。
名前も知らない何かが。
――弾けた。
何様のつもりなの。何を知っているというの。所詮私のさだめた宿命から逃れられない分際で。司として失格?どうしてそんなことを言うの。デスティのせい?デスティが私のことを話したから?いいえ違う。デスティは私をずっと見てくれた。あの女のせいだわ。あの女さえいなければデスティは私をずっと見てくれた。あの女さえいなければ。あの女さえいなければ。デスティ、デスティ、デスティ!
邪魔スルモノハ全テ消シ飛バシテアゲルカラ!
すい、と水晶を浮かし、それを覗く。
「私の宿命――それは一人で宿命を見守り続けること。コアを守ること。でも」
-------
「お、本当に外にも司がいたのかー。こんなところでひとりぼっちなんて
寂しくないのか?」
ある日、赤髪が目立つ男の司が、満面の笑みでフェイテルの元にやってきた。
はじめて聞いた、片割れ、デスティニー以外の声。
「寂しく? それってどういうことかしら」
フェイテルは、寂しいという感覚を持ち合わせていなかった。
「へっ?」
そんなことは全く知らない赤髪の司は、間抜けな声を出した。
「なあ、どういうことなんだ、ルナ?」
後ろから面倒くさそうな顔をした、淡い紫の髪の司がやってきた。
「あんたねぇ…知らないことを確かめに行く!とか言って
予習もしてこなかったわけ? 片割れとして情けないわ」
ばさりと髪をかき上げると、彼女はずいっと指を彼に向けて突きつける。
「いーい? あたしたちは、人間とは違うの。それぞれ役割を持ってるでしょ?
例えばあんたは太陽に異常が無いかの管理。あたしは、月に異常が無いかの管理。
で、エンティの世界を見守る他の司と円滑に情報のやり取りができるように、
人間と同じように感情と、一部の感覚が与えられている。でもね!」
つんっ、と眉間に当てた指を押して、赤髪の司を突き放す。
「門番である、フェイテルとデスティニーは、ずっと外で門番をするために存在して
いるの。だから交流する必要もない。感情はあるけれど、感覚はほとんど存在して
いないのよ」
「そうかー。なんか気の毒だな」
くるりと赤髪の司はフェイテルのほうを見ると、再び満面の笑みで手を差し出した。
「俺の名前はシャイン。キミは?」
その差し出された手に触れようとして、手をのばしかけるも、フェイテルは止まる。
「ん?」
不思議そうなシャイン。
それに対して首を振り、フェイテルは手を下ろした。
「私はフェイテル。ここの門番。だから、門の中の司とは交流できないわ。
名乗ったのも、貴方が名前を教えてくれたから」
「そんなことないだろ? 門からこうして、司が出てくることもあるんだ」
シャインはフェイテルにそう言って、一歩踏み出した。
「やめて!」
「うーん…」
困った顔の彼。フェイテルは悪いと思い、自分の立場を伝える。
「私たち門番は公平でなくてはならない。特定の誰かと親しくなると、感情的に
なって、もうひとつの使命を怠ってしまうかもしれないの。だからごめんなさい」
「……ほら」
ルナがシャインを引っ張った。
「わかった。これから司のまとめ役の人のところに行って聞いてみるよ、
番人はそれでなくてはいけないのかって」
「全然わかってないじゃない!」
ルナがどつくが、彼はにこ、と笑って、手を振って去っていった。
-------
数日後。
シャインは再びやってきた。
「いやー、デスティニーにも断られちゃったよ」
そう言って彼はフェイテルのほうを見た。
「まとめ役の人に聞いてきた。番人に会うことは、寂しさを感じさせるから
やめたほうがいいって言われた。でも、俺、思うんだ。毎日来ることだってできる。
番人として生まれたからって、誰とも交流しないなんて、宿命付けられているわけ
じゃないだろ?」
シャインの言葉にフェイテルは首を振る。
「宿命付けられているわ。私はここで門番をしつづけるの。
この子がそう言っている」
この子、と言って、持っている水晶を浮かべた。
それを見て、うーんと彼は唸った。
「宿命を司るフェイテルに言うのは悪いんだけどさ。宿命があっても、
そこから自分で歩き方を変えれば、運命が変わるんだろ?
俺と話すこと、それで何か変わると思うな」
デスティニーに聞いたのか。宿命は変えられないもの。運命は変えられるもの。
でも運命によって、宿命を変えることも不可能ではないということを。
しかしフェイテルはどうしても、シャインの手を取ることはできなかった。自分は
番人だから。宿命を司るものだから、宿命を歪めるようなことはできない、と。
-------
何日も過ぎた。
シャインは発言したとおり、本当に毎日やってくる。
それでもフェイテルは頑として意思を曲げなかった。
そして、何年も過ぎて――
「フェイテル。デスティニーと友達になったよ」
シャインには全く悪気が無かったのだろう。しかしフェイテルにとって、その言葉は
衝撃以外のなにものでもなかった。
「フェイテルがここを動ければいいのにな。あ、そうだ、デスティニーとは
時々しゃべってるんだろ? その方法を使って、みんなで話したりしないか?」
フェイテルは目を閉じた。そしてその場で座り込む。おい、どうしたんだよ、という
シャインの声が聞こえたが、どうでもよかった。ずるずると座り込むと、
さらにシャインが心配そうに駆け寄ってきた。フェイテルは下を向く。
涙がとめどなく流れ落ちる。
その中で、フェイテルは幻聴を聞いた。
「姉さん」
「あら、デスティ。貴方から話しかけてくるなんて珍しい」
「シャインって、知っているだろう? 毎日やってきて鬱陶しくて困る。
姉さんはどうしているんだ?」
「心配してくれているのはありがたいのだけど、宿命を背負っている私が、
もし、判断を誤ることがあったら大変でしょう? だから断りつづけているわ」
「そうか…」
私のデスティ。
出会うことはできないけれど、私とだけは話せるデスティ。
ちょっと生意気で、運命なんて見れるから、外の世界のことを私より知っているから
教えてくれる、本当は優しい子。
でも、永い永い時の中で、デスティは私を姉さんと呼ばなくなっていた。それは。
「姉さん。いや、フェイテル。人々の宿命、変えているだろう」
「気がついたの? ええ、変えているわ。面白いのですもの」
「そんなことを…人を悲しませて、なにが楽しいんだ」
「わからない? 苦しんで、助けを求める姿。立ち向かい、
自分で道を変えていく姿。どれもヒトのヒトらしい姿だわ。素敵なの」
「どうしたんだ、フェイテル。僕たちはただ人々を見守るだけが使命ではないか。
宿命を変えるなんて、僕たちの存在意義から遠く離れている」
「だってね、デスティ…貴方は変わるものを見ていられるでしょう?
でも私にはそれが無いの。ずっとずっと、宿命がおかしな力で狂わないか
見ているだけなの。寂しいわ」
「本末転倒だ。そのおかしな力というのが、今…姉さんがしていることなんだぞ」
「ごめんなさい、デスティ。この面白さ、一度覚えてしまうとやめられないみたい」
「フェイテル。やめてくれ。頼む…」
デスティが私に頼みごとをすることは初めてのこと。
でも、私の中に生まれてしまった欲望を止めることはどうしてもできなかった。
それから、毎日話した。デスティは私を責めるような言い方はしなかった。
「フェイテル。大丈夫かい?」
ようやくフェイテルに意識が戻る。
「いきなり泣き出すから驚いたよ。俺、なにか悪いこといっちゃったかな?」
下を向いたまま、フェイテルはふるふると頭を振った。それから涙を拭いて、
笑顔をシャインに向ける。
「確かにデスティとはやりとりできるわ。あちらにも誰かいるのかしら?」
「ああ。ルナと、慈愛の司アルフォン、それから俺たちのまとめ役、
エンティヌスがいる」
大人数に囲まれては困っているだろう。フェイテルはそう予想して、
水晶に力を込める。すると光があふれ出し、水晶にデスティニーの姿が映った。
――笑って、いた。
心の中にあふれ出す黒い感情。フェイテルにはそれがなんなのか
全くわからなかった。しかしシャインにそれを見せるのは絶対に嫌で
すぐに映像を消してしまった。
シャインはフェイテルの異変に全く気がつかなかったようで、デスティニーしか
映らないのかぁ、などと言っている。フェイテルは無理に笑いながら、
彼に話しかけた。
「ごめんなさいね。周りも映るように調整してみるわ。しばらくかかるので、
今日は、もう」
『今日は、もう』はお決まりの言葉だった。シャインにその気が無いから
帰ってほしい時に使う言葉。
それをわかっているシャインは、わかった、というと、そのまま立ち去っていった。
それから毎日、こっそりフェイテルはデスティニーの様子を見るようになった。
先日のような笑顔を見せることはほとんど無かったが、笑う理由がフェイテルには
わかってしまった。
彼は、ルナという司に、心を許している…
(私のデスティ。私の、私の――)
-------
そして。
デスティニーは何かに悩んでいることを司たちに気付かれてしまった。
内容を話すのは拒んだが、少しでも力になりたいと何度も言われていた。
デスティニーの悩みは、もちろんフェイテルのこと。だが自分だけで解決したい。
しかし、限界を感じた。
「僕だけの力では解決できない。本人を説得していたのだが、譲ってくれない。
だから、貴方から言ってもらえないか、エンティヌス」
まとめ役、ということで適任だと思ったのだろう。
しかし周りには他の司たちもいた。
デスティニーから事情を聞いた、その場の司たちは驚いた。
なんとしても止めなくてはいけない。
それから、毎日やってくるのがシャインと、エンティヌスになった。
そのうち、フェイテルのしていることが噂になり、こんなに長時間説得しているのに
解決しないのでは、少々乱暴な手を使ってでも止めなければという言葉さえ
出てくるようになった。
フェイテルは、笑顔で断り続けていた。
まるで人形のように。まるでただの作業のように。
なぜならそれどころでは無かったのだ。
『私のデスティ』が、私のことを話した。
それがショックだったのだ。そんな感情の名も知らないので、
自分でどうしているのかもよくわからないまま。
全ての終わりは、突然にやってきた。
「今日生まれてきた子たちはどんな宿命なのかしら。あら、この子は幸せすぎだわ。
調整しないと」
そしてそれを実行に移そうとした時。
「やめるんだ、フェイテル! って、うわ、どうしたんだよお前たち!」
シャインが飛び込んできた。が、すぐに他の司たちに踏み潰される。
「フェイテル! 司としてお前は失格だ。お前を審判にかける!」
「おとなしくこちらに来てもらおうか。我々はエンティヌス殿のように
改善をゆっくり待つことなどできない!」
「時間が経てば経つほど、被害は広がっていく!」
そんな、騒動にいきなり巻き込まれて。
今まで少しづつ溜まっていた何かが。
黒い何かが。
名前も知らない何かが。
――弾けた。
何様のつもりなの。何を知っているというの。所詮私のさだめた宿命から逃れられない分際で。司として失格?どうしてそんなことを言うの。デスティのせい?デスティが私のことを話したから?いいえ違う。デスティは私をずっと見てくれた。あの女のせいだわ。あの女さえいなければデスティは私をずっと見てくれた。あの女さえいなければ。あの女さえいなければ。デスティ、デスティ、デスティ!
邪魔スルモノハ全テ消シ飛バシテアゲルカラ!
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昨日の続きだぜ。
---------------
オレサマとシンは、島の構造を知るべく、島を彷徨った。
よくわかったことは、オレサマたちのいた世界はたくさんある世界の
ほんのひとつにすぎず、ウチじゃあ司と恐れられる存在も、邪心と言われる存在も、
ここにいる限りは本来の力が発揮できないことだった。
しかしシンは言う。ここにいる連中は、運命を懸命に回しているモノばかりだと。
それだけはわかるそうだ。
そして、フェイテルが自由に邪心を呼べるように、シン自身も邪心を呼ぶことが
できることを聞き出した。
けど、それはしない、とシンは言う。
なぜだ、と問えば、私事に巻き込むのはよくない、と言う。
誰かさんとは大違いだな。だけど…その結果コイツだけが傷つくのなら、
その判断は間違っていると思う。その呼び出せる連中がどんな性格なのかは
知らんが、オレサマの知っている邪心のような連中なら、
こいつを守りたいと考えると思うぜ。
そんなオレサマを置いておいて、シンが決めたいことは、
フェイテルとどこで戦うか、ということだそうだ。
この島で戦おうと、元の世界で戦おうと、オレサマの例からいって
あまり変わらない気もする。
しかしシンはなにかに思い当たったようだ。表情も変わらんし、
瞳は虚ろでなにを考えているのかはわかりにくいが、空を見て、
「まてよ」とか言っていたからな!
それで、なにに思い当たったのか聞いたが、教えてくれねーものだから、
肩をつかんでぶんぶん振り回そうとしたが、所詮オレサマはオバケ。
すかすかとあいつの肩に手がさくさく通過するだけだった。
「なんでだよ。なんで教えねーんだよ。オレサマ、協力するって約束しただろうが」
そう言ったが、シンは首を振る。
コイツぅ…オレサマがフェイテルを倒す方法、思いつきやがったな。
でも自分がけじめをつけようとして、それを隠してるんだ。
「運命を見守る奴がいなくなったら、困るだろう?
他の司の遺志を無駄にするつもりか!」
「それが間違っていた。歪んだ宿命を与えるものがいなくなれば、
運命もヒトが自分で回せるようになる。私の存在意義は無くなるのだ」
「でもわざわざお前がやる必要はねぇ。対応策、見つかったんだろ?!」
するとシンはオレサマをまじまじと見つめた。
「鋭いな。だが、これは私ではないとできないことだ」
「なんだと…」
オレサマはそう返すのがやっとだった。
オレサマと違って、こいつは(たぶん)嘘はつかない。
「じゃあ説明してみろ」
するとふるふるとシンは首を振った。
「巻き込みたくない。それと、お前がガンマに戻ったときにフェイテルに
情報が漏れる危険性がある」
オレサマがガンマに戻る? 疑問が浮かんだ。
「なんだそりゃ。誰がそんなことしてくれンだよ」
「ガンマの主以外に誰ができると思うのだ?」
まさか。カルニアがそんな面倒くさいことやるわけが――と思ってから、
ガンマが消えそうになったときに取ったアイツの行動を思い出す。
己の身を削りながら、泣いていた。
「………。もし戻ったら情報が漏れるのは、
ガンマがフェイテルの支配下だからだよな」
こくり。青い頭が動く。オレサマが口を割るなんてことないとわかっているようだ。
少し嬉しい。
「いつ、ヴァイザがお前を復活させようとするかわからない。
しばらく彼らを追おう」
目的ずれてるぞ。
「いや、フェイテルの動きを観察するために動こうぜ」
それから、オレサマたちはフェイテルを探し回り、遺跡よりも、
出てくるのを待っていたほうがいいと判断した。
そしてついに、遺跡外で見つけた。シンは、見られたかもしれん、と
やけに心配そうにしていたが。
その後は簡単なこと。あの連中が進んでいくのをひょいひょいついて行っただけだ。
そしてカルニアが、オレサマとフェイテルが戦ったところで復活の儀式をやると
聞き、そこに急行する。
別れの言葉をシンにかけたが、あいつはなにも言わなかった。
気を利かせるなんて機能、ついてないんだろうな…
そんなわけでいろいろあったが、オレサマはガンマとして復活した。
---------------
話を現在に戻す。
オレサマたちはカルニアを除いて、合同宿舎にいることが多くなった。
なんでも、カルニアが遺跡外に留まって、製作をひたすらやっているそうだ。
フェイテルが島のルールに基づいて、自分の能力を上げていたが、
ほとんど器用の力にしていたのは、カルニアが金儲けするためだったらしい。
「やっと本領発揮できますよぅ~」
と、奴はご機嫌だから困る。たぶんだが…客、いや遺跡外にいるやつらのデータを
取りまくっているんだろうな。
「がんまー」
合同宿舎の主の妹、プラストスが背中にくっついた。
オレサマの肩にくっついている、『トパーズ』の相棒、ロイと目が合い、
なんか不穏な空気になっている。
「わたしが、ガンマの左肩にくっついて育ったんだよー。どうしてそことるのー」
カルニアに言われて、プラストスと、兄のドリャスを肩にくっつけて『ガンマ』は
2匹…いや2人を育ててきた。甘やかして能力を開花させないように。
結果、ドリャスには独立されてしまったが、カルニアが重要視していたのは
プラストスなのだ。カルニアは元データがあれば、それに変化することができる。
それを利用して、合同宿舎のある世界の、ホリレス達が住む、聖なる庭に
たびたび遊びに行っていたのだ(そこにある聖水が高く売れるんだってよ)。
聖なる庭には強力な結界が張ってあるが、カルニアがそれに触れて、
結界と同じモノになり、堂々と通過しているんだとか。ちと…小気味が悪い。
でもプラストスが成長すると、同化できなくなる結界を張ることができるように
なるそうだ。だから絶対阻止してくださいね! だとさ。
そんなわけで左肩にしばらくプラストスを乗せていたのだが、『トパーズ』の相方、
ロイと再会してから状況は変わった。
『トパーズ』はロイを左肩に乗せていたからだ。
それから1人と1匹はバトルを繰り広げる。やれやれだぜ。
――でも。最初はカルニアの指示で嫌々やっていた子育ても、
気がつけば慣れていた。プラストスに懐かれているのも嫌ではなかった。
オレサマ…プラストスが愛しいと思っているみたいなんだ。バカみたいだろ?
命令から、ここまで心変わりしてしまうなんてよ。プラストスはオレサマのこと、
親と思っているみたいだし…邪霊とホリレスにそんな関係があるなんてなぁ。
自分のことだが信じらんねぇ。
---------------
「おい」
背中からプラストスを引っぺがしながら、合同宿舎の主サマ、
オルドビスが声をかけてきた。
「最近ペンキはどうしている?」
ペンキ…フェイテルのことを、オルドビスはそう呼ぶ。
「んー。カルニアの金儲け見て楽しんでるみたいだぜ?
相変わらず何考えているのかわかったもんじゃねえ」
「そうか。奴がここにいないのは助かるからな」
「あのよ」
オレサマは脊髄反射でオルドビスに声をかけていた。
「なんだ」
「なんで、フェイテルのこと、ペンキって呼ぶんだ?」
ほんの興味。ペンキって、どう考えてもあのちょっと臭う色塗る物体しか
思いつかねぇんだ。それとフェイテルにどんな関係があるんだか。
オルドビスは目を閉じた。
「司には翼がある」
「は?」
間抜けな声を出してしまった。
「現在残っている司。フェイテル、デスティニー、ヘル。彼らの翼は全て黒色だ」
「ちょ、ちょっと待て。フェイテルには長い間付き合ってやってるけど、
そんなもん見たこと無いぞ」
オレサマが説明を求めると、オルドビスは淡々と答えてくる。
「司の力は強大だ。その力は翼に込められている。だから普段はリボンらしきものに
変化させているんだ」
ああ、そういえばフェイテルの腰に、やけに長い白いリボンがついていたな。
シンもフードを被っていたから一緒にいるときは目立たなかったが、肩の装飾品が、
長い黒い謎の布だったことを思い出す。
「で? どこらへんがペンキなんだ?」
さらに質問を続けた。
「フェイテルは、黒い翼をペンキで白に染めている」
「……」
オレサマは言葉を失った。呆れて。
「それ…臭くねぇのか?」
そしてズレた質問をしてしまった。
「知るか」
ですよねー。しかしなんでそんなことしているんだろう。
思ったまま聞いてみる。
「大抵の司の翼は白だったと聞く。それに合わせたかったのだろう」
ふーん。
コンプレックス、ってやつだったのかねぇ。
ちょっと気の毒に…なりかけて、普段のアイツを思い出し、やめた。
「んじゃ、オレサマ、街に行ってくらぁ」
ひらひらとオルドビスに手を振って、合同宿舎から出ようとする。
と、そこでまたプラストスが背中にくっついた。
「…まったくしょうがねぇ奴だな」
オレサマはそれだけ言って、くっつけたまま合同宿舎を出た。
オレサマが街でなにをしているのかというと、金稼ぎだ。
冒険者になって討伐する、というのも考えたが、大抵倒してしまうと思うので、
大邪霊のオレサマが片っ端から生態系ぶっ壊すのは大人気ないと、
選択肢からはずした。
そこで今やっているのは、闘技場だ。
これがまたいい。人間でも強いやつはたくさんいるから楽しめるし、
勝つと金はもらえるし。
いつの間にかオレサマは最高ランクの人間と登録されていた。それで、
街中で因縁つけられるのもまたいい。わざわざオレサマを選んでくれる人間がいる。
そう思うと胸が高まる。
だからオレサマは街が大好きだ。
プラストスも一応、オレサマが戦うのが大好きだと理解していて、
相手が現れると、背中から降りる。それをよくからかわれるが、
そうすると自分の心の底から声が聞こえる。
「子守をしているような小僧にやられる悔しさを与えてやろうじゃねぇか」と。
所詮、オレサマ、邪霊ってことよ。
そんな感じで、皆適当に日々の生活を送っていた。
それが、突然崩れるなんて、夢にも思っていなかった。
---------------
オレサマとシンは、島の構造を知るべく、島を彷徨った。
よくわかったことは、オレサマたちのいた世界はたくさんある世界の
ほんのひとつにすぎず、ウチじゃあ司と恐れられる存在も、邪心と言われる存在も、
ここにいる限りは本来の力が発揮できないことだった。
しかしシンは言う。ここにいる連中は、運命を懸命に回しているモノばかりだと。
それだけはわかるそうだ。
そして、フェイテルが自由に邪心を呼べるように、シン自身も邪心を呼ぶことが
できることを聞き出した。
けど、それはしない、とシンは言う。
なぜだ、と問えば、私事に巻き込むのはよくない、と言う。
誰かさんとは大違いだな。だけど…その結果コイツだけが傷つくのなら、
その判断は間違っていると思う。その呼び出せる連中がどんな性格なのかは
知らんが、オレサマの知っている邪心のような連中なら、
こいつを守りたいと考えると思うぜ。
そんなオレサマを置いておいて、シンが決めたいことは、
フェイテルとどこで戦うか、ということだそうだ。
この島で戦おうと、元の世界で戦おうと、オレサマの例からいって
あまり変わらない気もする。
しかしシンはなにかに思い当たったようだ。表情も変わらんし、
瞳は虚ろでなにを考えているのかはわかりにくいが、空を見て、
「まてよ」とか言っていたからな!
それで、なにに思い当たったのか聞いたが、教えてくれねーものだから、
肩をつかんでぶんぶん振り回そうとしたが、所詮オレサマはオバケ。
すかすかとあいつの肩に手がさくさく通過するだけだった。
「なんでだよ。なんで教えねーんだよ。オレサマ、協力するって約束しただろうが」
そう言ったが、シンは首を振る。
コイツぅ…オレサマがフェイテルを倒す方法、思いつきやがったな。
でも自分がけじめをつけようとして、それを隠してるんだ。
「運命を見守る奴がいなくなったら、困るだろう?
他の司の遺志を無駄にするつもりか!」
「それが間違っていた。歪んだ宿命を与えるものがいなくなれば、
運命もヒトが自分で回せるようになる。私の存在意義は無くなるのだ」
「でもわざわざお前がやる必要はねぇ。対応策、見つかったんだろ?!」
するとシンはオレサマをまじまじと見つめた。
「鋭いな。だが、これは私ではないとできないことだ」
「なんだと…」
オレサマはそう返すのがやっとだった。
オレサマと違って、こいつは(たぶん)嘘はつかない。
「じゃあ説明してみろ」
するとふるふるとシンは首を振った。
「巻き込みたくない。それと、お前がガンマに戻ったときにフェイテルに
情報が漏れる危険性がある」
オレサマがガンマに戻る? 疑問が浮かんだ。
「なんだそりゃ。誰がそんなことしてくれンだよ」
「ガンマの主以外に誰ができると思うのだ?」
まさか。カルニアがそんな面倒くさいことやるわけが――と思ってから、
ガンマが消えそうになったときに取ったアイツの行動を思い出す。
己の身を削りながら、泣いていた。
「………。もし戻ったら情報が漏れるのは、
ガンマがフェイテルの支配下だからだよな」
こくり。青い頭が動く。オレサマが口を割るなんてことないとわかっているようだ。
少し嬉しい。
「いつ、ヴァイザがお前を復活させようとするかわからない。
しばらく彼らを追おう」
目的ずれてるぞ。
「いや、フェイテルの動きを観察するために動こうぜ」
それから、オレサマたちはフェイテルを探し回り、遺跡よりも、
出てくるのを待っていたほうがいいと判断した。
そしてついに、遺跡外で見つけた。シンは、見られたかもしれん、と
やけに心配そうにしていたが。
その後は簡単なこと。あの連中が進んでいくのをひょいひょいついて行っただけだ。
そしてカルニアが、オレサマとフェイテルが戦ったところで復活の儀式をやると
聞き、そこに急行する。
別れの言葉をシンにかけたが、あいつはなにも言わなかった。
気を利かせるなんて機能、ついてないんだろうな…
そんなわけでいろいろあったが、オレサマはガンマとして復活した。
---------------
話を現在に戻す。
オレサマたちはカルニアを除いて、合同宿舎にいることが多くなった。
なんでも、カルニアが遺跡外に留まって、製作をひたすらやっているそうだ。
フェイテルが島のルールに基づいて、自分の能力を上げていたが、
ほとんど器用の力にしていたのは、カルニアが金儲けするためだったらしい。
「やっと本領発揮できますよぅ~」
と、奴はご機嫌だから困る。たぶんだが…客、いや遺跡外にいるやつらのデータを
取りまくっているんだろうな。
「がんまー」
合同宿舎の主の妹、プラストスが背中にくっついた。
オレサマの肩にくっついている、『トパーズ』の相棒、ロイと目が合い、
なんか不穏な空気になっている。
「わたしが、ガンマの左肩にくっついて育ったんだよー。どうしてそことるのー」
カルニアに言われて、プラストスと、兄のドリャスを肩にくっつけて『ガンマ』は
2匹…いや2人を育ててきた。甘やかして能力を開花させないように。
結果、ドリャスには独立されてしまったが、カルニアが重要視していたのは
プラストスなのだ。カルニアは元データがあれば、それに変化することができる。
それを利用して、合同宿舎のある世界の、ホリレス達が住む、聖なる庭に
たびたび遊びに行っていたのだ(そこにある聖水が高く売れるんだってよ)。
聖なる庭には強力な結界が張ってあるが、カルニアがそれに触れて、
結界と同じモノになり、堂々と通過しているんだとか。ちと…小気味が悪い。
でもプラストスが成長すると、同化できなくなる結界を張ることができるように
なるそうだ。だから絶対阻止してくださいね! だとさ。
そんなわけで左肩にしばらくプラストスを乗せていたのだが、『トパーズ』の相方、
ロイと再会してから状況は変わった。
『トパーズ』はロイを左肩に乗せていたからだ。
それから1人と1匹はバトルを繰り広げる。やれやれだぜ。
――でも。最初はカルニアの指示で嫌々やっていた子育ても、
気がつけば慣れていた。プラストスに懐かれているのも嫌ではなかった。
オレサマ…プラストスが愛しいと思っているみたいなんだ。バカみたいだろ?
命令から、ここまで心変わりしてしまうなんてよ。プラストスはオレサマのこと、
親と思っているみたいだし…邪霊とホリレスにそんな関係があるなんてなぁ。
自分のことだが信じらんねぇ。
---------------
「おい」
背中からプラストスを引っぺがしながら、合同宿舎の主サマ、
オルドビスが声をかけてきた。
「最近ペンキはどうしている?」
ペンキ…フェイテルのことを、オルドビスはそう呼ぶ。
「んー。カルニアの金儲け見て楽しんでるみたいだぜ?
相変わらず何考えているのかわかったもんじゃねえ」
「そうか。奴がここにいないのは助かるからな」
「あのよ」
オレサマは脊髄反射でオルドビスに声をかけていた。
「なんだ」
「なんで、フェイテルのこと、ペンキって呼ぶんだ?」
ほんの興味。ペンキって、どう考えてもあのちょっと臭う色塗る物体しか
思いつかねぇんだ。それとフェイテルにどんな関係があるんだか。
オルドビスは目を閉じた。
「司には翼がある」
「は?」
間抜けな声を出してしまった。
「現在残っている司。フェイテル、デスティニー、ヘル。彼らの翼は全て黒色だ」
「ちょ、ちょっと待て。フェイテルには長い間付き合ってやってるけど、
そんなもん見たこと無いぞ」
オレサマが説明を求めると、オルドビスは淡々と答えてくる。
「司の力は強大だ。その力は翼に込められている。だから普段はリボンらしきものに
変化させているんだ」
ああ、そういえばフェイテルの腰に、やけに長い白いリボンがついていたな。
シンもフードを被っていたから一緒にいるときは目立たなかったが、肩の装飾品が、
長い黒い謎の布だったことを思い出す。
「で? どこらへんがペンキなんだ?」
さらに質問を続けた。
「フェイテルは、黒い翼をペンキで白に染めている」
「……」
オレサマは言葉を失った。呆れて。
「それ…臭くねぇのか?」
そしてズレた質問をしてしまった。
「知るか」
ですよねー。しかしなんでそんなことしているんだろう。
思ったまま聞いてみる。
「大抵の司の翼は白だったと聞く。それに合わせたかったのだろう」
ふーん。
コンプレックス、ってやつだったのかねぇ。
ちょっと気の毒に…なりかけて、普段のアイツを思い出し、やめた。
「んじゃ、オレサマ、街に行ってくらぁ」
ひらひらとオルドビスに手を振って、合同宿舎から出ようとする。
と、そこでまたプラストスが背中にくっついた。
「…まったくしょうがねぇ奴だな」
オレサマはそれだけ言って、くっつけたまま合同宿舎を出た。
オレサマが街でなにをしているのかというと、金稼ぎだ。
冒険者になって討伐する、というのも考えたが、大抵倒してしまうと思うので、
大邪霊のオレサマが片っ端から生態系ぶっ壊すのは大人気ないと、
選択肢からはずした。
そこで今やっているのは、闘技場だ。
これがまたいい。人間でも強いやつはたくさんいるから楽しめるし、
勝つと金はもらえるし。
いつの間にかオレサマは最高ランクの人間と登録されていた。それで、
街中で因縁つけられるのもまたいい。わざわざオレサマを選んでくれる人間がいる。
そう思うと胸が高まる。
だからオレサマは街が大好きだ。
プラストスも一応、オレサマが戦うのが大好きだと理解していて、
相手が現れると、背中から降りる。それをよくからかわれるが、
そうすると自分の心の底から声が聞こえる。
「子守をしているような小僧にやられる悔しさを与えてやろうじゃねぇか」と。
所詮、オレサマ、邪霊ってことよ。
そんな感じで、皆適当に日々の生活を送っていた。
それが、突然崩れるなんて、夢にも思っていなかった。
時は遡って、ガンマが消滅したころの話。
--------------
「ハハッ…実はカルニアより長生きだったオレサマも、ようやく眠れるってか?」
ガンマは魂まで粉々にされ、もう意識も朦朧としていた。
「バラバラなのにまだ意識があるのな。しかも痛くねぇ…
せめてもの情けって奴かぁ?」
乾いた笑い声。
「ひゃはははは。……はは……ハハッ」
すると、自分の発する笑い声でよく聞こえなかったが、
何者かの声が聞こえた気がした。
「単刀直入に聞く」
「…あん?」
笑うのをやめ、声の方向に意識を傾ける。
「フェイテルを倒すのを手伝ってはもらえんか」
「………」
またオレサマを成仏させてくれねー奴がいる。それだけはわかった。
「オレサマにできることなんてなんもねーよ。
現にこうしてやられたところなんだぜ?」
「お前はおそらく、この世で一番あいつを知っている」
淡々と返ってくる応え。
しかしガンマはデジャヴを感じていた。
(この声…どこかで聞いたぞ……)
「時間が無い。第6の世界の邪霊であるお前は、フェイテルの力を強く受ける。
このままではお前を助けることはできん。お前が生きることを望むなら、
第20の世界の魂に変えねばならぬ」
考え事をしながらでも、彼の声はよく聞こえた。
「魂を変える?」
「そうだ、トパーズ=ラシダス。運命の輪から逃れられぬ者よ」
(思い出した…!)
その言葉をきっかけにガンマの意識は過去の記憶を引きずりだすことに成功した。
--------------
「変わったところですね」
銀髪の弱気な野郎が、異質なダンジョンを見回して言う。
「すごいわすごいわ! 私たちの世界にこんなところがあったなんて、大発見よ!
さ、サフィー。冒険の旅にレッツゴー!」
一応ウチのご一行様のリーダー、世間知らずのお姫様が言った。
「おい…ここ、やべぇよ。聖獣の住処より遥かに元素が濃い。
迂闊に突っ込むと、死ぬかもしれねーぜ?」
バカウマ――っと失礼。森の聖獣サマがそう言ってリーダーを止めようとする。
無駄だと思うが。
「私の知っている…マルカブの水晶より、ここに浮かんでいる水晶は
強い力を持っている。見ろ…」
銀翼の女がひらりと飛び、浮かんでいる水晶を持ってきた。
そしてそれをいきなり砕きやがった。
起こる大爆発。
「ちょっ、なにすんのよ!」
お姫様――ピピアルっていうんだが――が言う。
「この水晶に一斉に襲われたら、今の数十倍のダメージだ。
よってここは危険だと私は思うぞ」
銀翼の女、アメジストは淡々と説明した。どうやらピピアルを口で説得するのは
不可能だと短期間で学びやがったんだ。
「むう…」
ピピアルはうなったが、キッと顔を上げて言った。
「それでも冒険するわ。私とサフィー二人でも!」
…この姫さんは、従者のサフィーを自分と一心同体だと思っているから困る。
こういうときに役に立つのが――
「敵意を感じる。ピピアル、俺たちの身は、すでに危険にさらされているようだぞ」
エメラルドというピピアル暴走停止係が言った。
「え?」
姫さんはきょろきょろした。
オレサマも様子を伺う。
ああ、入り口から一本道を多少進んだところに広場があるな。
あそこから確かにこちらへ圧力をかけてきている奴がいた。
すたすたとオレサマはそこへ歩いていくことにする。
「トパーズ、やめておけよ!」
バカウマが言った。
「姫さんが特攻するよりゃマシだって」
オレサマはひらひらと手を振った。
広場に着くと、闇が現れ、その中から青髪の、黒い服を身に纏った少年が現れた。
「トパーズ=ラシダスか。宿命を運命の力で変えた者よ」
「んー」
オレサマは“うっさんくせえなコイツ”という目で相手を見てやる。
小柄なオレサマだが、少年はさらに背が低い。
「私は運命を見守る者。ここは運命を背負う人々全ての意思が留まる場所。
即刻退去を命ずる」
シャー!
後ろから声がした。姫さん…気品もひったくれもないな。
「なんでよ! 入れるようにしておいて、冒険させないなんて、
それなんて横暴?! ちゃんとドア閉めておきなさいよ!」
その叫びが終わると、少年はすっと指をピピアルに向けた。
「!?」
「ピピアル!」
瞬間、かまいたちが起き、ピピアルを襲った。
勘の良さが半端ねぇサフィーがとっさに自分のほうへ彼女を引き寄せたが、
少々間に合わず、ピッと姫さんの腕に傷がついた。
「や… やってくれたわねぇー!」
そして、ピピアルは、魔剣:ハルツゴールヌを引き抜く。
「本来はアンタなんかに使うものじゃないのよ! でも私、アンタを許さない!」
それをちらと見た少年は、ふう、と息をついた。
「その魔剣は魂を喰らう。その影響か。だが」
少年は細身の剣を召喚する。
「そちらの事情など関係ない。ただ私は、警告をし、
それを聞き入れぬ者に制裁を与える、それだけだ」
「制裁…やれるものならやってみなさいよ!」
こうしてバトルが始まった。
闇をまとった少年は詠唱無しでガンガン珠術(こっちの世界で言う魔術だな)を
使ってくる。
こちらは4人がかりだが、全くひるむ様子も無かった。
それを打ち倒したとき、オレサマたちは知る。
少年と同位体の存在が、オレサマたちの世界を混乱させるために、
なんでも願いが叶う宝石を生み出したのだ、と。
その宝石の企みを阻止するため生きてきたオレサマは、
当然、その生み出した同位体とやらも憎んだ。
同位体の名前も聞いた。フェイテルっていうんだぜ?
--------------
「お前、あのときのチビか」
「……そうだ」
声が聞こえなくなってきた。おお、早く決断しないとヤバそうだな。
「わかったよ。昔のよしみで手伝ってやらぁ」
オレサマが言うと、すっと体が軽くなった。
つい、自分の体を見る。
懐かしい緑のマフラーが見えた。
憎らしいオーブが填められた甲冑も見えた。
腰には大量のナイフがぶら下がっている。
体を動かしてみる。
ふわふわと漂い、声の主を探して、その横に着陸してみる。
「なんだ。またオバケかよ」
オレサマは文句を言ってみた。しかし少年はスルー。
「…たく。でもこの質問には答えてもらうぞ。お前、名前なんだ?」
少年がこちらを向いた。が、すぐに目を閉じた。
また無視する気か、と思ったが、それは杞憂で。
「…デスティニー」
ああ、フェイテルが宿命で。こいつは運命だったのか。
「ちと…本名で呼ぶとやばそうだな。なんかあだ名考えねーと」
「本名ではない。もともと我々に名前という概念は無い。
ただ、役割で相手を判別しているだけだ」
いや、それを名前っていうんじゃねーの? とは思ったが、
オレサマは余計なことだと思い、放っておくことにする。
「ならば…シン、と呼んでもらえるか?」
意外な提案にオレサマは驚いた。
「どこからでてきたその名前」
するとデスティニーはどこからかベージュのローブを取り出して羽織ながら言った。
「以前、ヒトの世に言った際、貰った名だ」
そんなことしていたのか。
確か殺し合いしていたときは自分はここの番人だ動かない、って言っていた気が
するんだが。しかし、オレサマの現状に全く関係ないことなんで、追求はやめた。
そしてオレサマは問う。
「で? フェイテルを倒す協力って、具体的になにをすればいいんだ?」
「今、フェイテルがいる、ここのルールと、フェイテルの状態を教えてもらいたい。
わかる範囲で構わない」
--------------
オレサマはフェイテルがこの島のモノにはボコボコにやられることも
少なくないことを伝えた。そのため邪心を行使して、散歩をしていると。
そこでオレサマはこの島でならフェイテルを殺せるかもしれないと試してみたって
わけさ、と言った。
デスティニー…じゃなかった、シンは、
・フェイテルはここでは一般人と変わらない
・しかしある程度の宿命は見れる
・管理している世界のモノの宿命は見ることも、宿命を操ることもできる
と、まとめた。
「あまり参考にならねーな、これ」
オレサマはそう言って、ナイフをプラプラさせた。
シンも考え込んでいた。
「やはり…私が倒すか」
「あン!?」
オレサマは声を上げる。
「お前だって、フェイテルの“私には勝てないわよ”の呪い…いや
宿命の下にいるんだろ?」
こくり。頷く頭。
「そうだ。その宿命があるから、他の司達は滅んでいった」
「なんだってぇ!?」
司というのは、世界が無事に動いているか見守る存在たちだ。
それがいなくなってるというのかよ。
「私のせいでな。フェイテルが、宿命を見守るだけでなく、宿命を
植えつけていることを親しかった司に相談してしまったんだ。
それで、司の頭が動き、フェイテルに勝負を挑んだ」
その結果が全滅かよ。
「クソッ、胸糞が悪いぜ。なんとしてもぶっ殺してやる。その手段があるなら、
オレサマはどんな手も使うぜ」
ぐさり。
ナイフを地面に叩きつけるように投げた。
「他の司達は…運命を守るものがいなくなったら、それこそ不幸な人々が増えると
言って私を戦に連れて行かなかった。その遺志に逆らわないよう、
ずっと私は運命を見守っていた。だが…」
今まで濁っていたシンの瞳に突如力が宿る。
「あのときの決断は間違っていた。私はなんて臆病なんだ。
私は何故、ここまで非力なんだ!」
――エリアスに、聞いた。
自分はデスティニーが捨てた感情の生まれ変わりなのだと。
けどよ。
今のコイツを見て確信した。
感情は捨てれるものじゃない。
オレはシンの手を握り締めて言った。
「決断を間違えたら、やり直せばいいだろうが!
それは多くのものが帰ってこないんだろうよ。でも放置していればどんどん状況は
悪くなる! お前は臆病じゃない、動き出したんだ、オレはなんでも協力する、
いや、あの女はオレが殺す!」
シンは瞳を見開いてオレを見た。
「お前が…どうやって…」
そこを突っ込まれて返答に詰まるオレ。
「だってよ」
どうしても、コイツにフェイテル殺しはさせたくなかった。
「事情はわかった。でも、フェイテルってお前の姉貴みたいなモンだろ?
姉殺すことに抵抗は無いのか?」
まだシンはオレを見つめたままだ。
「そりゃよ。あいつは憎い。でも、お前じゃなきゃダメなのか?
お前の力をオレサマに付加するとかなんとかして、代わりにはなれねーのか?」
シンは、長い沈黙のあと、そっと首を振った。
オレサマもただ黙って、その姿を見ていた。
※すいません、昔の日記と矛盾しているところがあると思います。
昔の日記を確認する時間がありませんでした。チキンレーサーなもので。
--------------
「ハハッ…実はカルニアより長生きだったオレサマも、ようやく眠れるってか?」
ガンマは魂まで粉々にされ、もう意識も朦朧としていた。
「バラバラなのにまだ意識があるのな。しかも痛くねぇ…
せめてもの情けって奴かぁ?」
乾いた笑い声。
「ひゃはははは。……はは……ハハッ」
すると、自分の発する笑い声でよく聞こえなかったが、
何者かの声が聞こえた気がした。
「単刀直入に聞く」
「…あん?」
笑うのをやめ、声の方向に意識を傾ける。
「フェイテルを倒すのを手伝ってはもらえんか」
「………」
またオレサマを成仏させてくれねー奴がいる。それだけはわかった。
「オレサマにできることなんてなんもねーよ。
現にこうしてやられたところなんだぜ?」
「お前はおそらく、この世で一番あいつを知っている」
淡々と返ってくる応え。
しかしガンマはデジャヴを感じていた。
(この声…どこかで聞いたぞ……)
「時間が無い。第6の世界の邪霊であるお前は、フェイテルの力を強く受ける。
このままではお前を助けることはできん。お前が生きることを望むなら、
第20の世界の魂に変えねばならぬ」
考え事をしながらでも、彼の声はよく聞こえた。
「魂を変える?」
「そうだ、トパーズ=ラシダス。運命の輪から逃れられぬ者よ」
(思い出した…!)
その言葉をきっかけにガンマの意識は過去の記憶を引きずりだすことに成功した。
--------------
「変わったところですね」
銀髪の弱気な野郎が、異質なダンジョンを見回して言う。
「すごいわすごいわ! 私たちの世界にこんなところがあったなんて、大発見よ!
さ、サフィー。冒険の旅にレッツゴー!」
一応ウチのご一行様のリーダー、世間知らずのお姫様が言った。
「おい…ここ、やべぇよ。聖獣の住処より遥かに元素が濃い。
迂闊に突っ込むと、死ぬかもしれねーぜ?」
バカウマ――っと失礼。森の聖獣サマがそう言ってリーダーを止めようとする。
無駄だと思うが。
「私の知っている…マルカブの水晶より、ここに浮かんでいる水晶は
強い力を持っている。見ろ…」
銀翼の女がひらりと飛び、浮かんでいる水晶を持ってきた。
そしてそれをいきなり砕きやがった。
起こる大爆発。
「ちょっ、なにすんのよ!」
お姫様――ピピアルっていうんだが――が言う。
「この水晶に一斉に襲われたら、今の数十倍のダメージだ。
よってここは危険だと私は思うぞ」
銀翼の女、アメジストは淡々と説明した。どうやらピピアルを口で説得するのは
不可能だと短期間で学びやがったんだ。
「むう…」
ピピアルはうなったが、キッと顔を上げて言った。
「それでも冒険するわ。私とサフィー二人でも!」
…この姫さんは、従者のサフィーを自分と一心同体だと思っているから困る。
こういうときに役に立つのが――
「敵意を感じる。ピピアル、俺たちの身は、すでに危険にさらされているようだぞ」
エメラルドというピピアル暴走停止係が言った。
「え?」
姫さんはきょろきょろした。
オレサマも様子を伺う。
ああ、入り口から一本道を多少進んだところに広場があるな。
あそこから確かにこちらへ圧力をかけてきている奴がいた。
すたすたとオレサマはそこへ歩いていくことにする。
「トパーズ、やめておけよ!」
バカウマが言った。
「姫さんが特攻するよりゃマシだって」
オレサマはひらひらと手を振った。
広場に着くと、闇が現れ、その中から青髪の、黒い服を身に纏った少年が現れた。
「トパーズ=ラシダスか。宿命を運命の力で変えた者よ」
「んー」
オレサマは“うっさんくせえなコイツ”という目で相手を見てやる。
小柄なオレサマだが、少年はさらに背が低い。
「私は運命を見守る者。ここは運命を背負う人々全ての意思が留まる場所。
即刻退去を命ずる」
シャー!
後ろから声がした。姫さん…気品もひったくれもないな。
「なんでよ! 入れるようにしておいて、冒険させないなんて、
それなんて横暴?! ちゃんとドア閉めておきなさいよ!」
その叫びが終わると、少年はすっと指をピピアルに向けた。
「!?」
「ピピアル!」
瞬間、かまいたちが起き、ピピアルを襲った。
勘の良さが半端ねぇサフィーがとっさに自分のほうへ彼女を引き寄せたが、
少々間に合わず、ピッと姫さんの腕に傷がついた。
「や… やってくれたわねぇー!」
そして、ピピアルは、魔剣:ハルツゴールヌを引き抜く。
「本来はアンタなんかに使うものじゃないのよ! でも私、アンタを許さない!」
それをちらと見た少年は、ふう、と息をついた。
「その魔剣は魂を喰らう。その影響か。だが」
少年は細身の剣を召喚する。
「そちらの事情など関係ない。ただ私は、警告をし、
それを聞き入れぬ者に制裁を与える、それだけだ」
「制裁…やれるものならやってみなさいよ!」
こうしてバトルが始まった。
闇をまとった少年は詠唱無しでガンガン珠術(こっちの世界で言う魔術だな)を
使ってくる。
こちらは4人がかりだが、全くひるむ様子も無かった。
それを打ち倒したとき、オレサマたちは知る。
少年と同位体の存在が、オレサマたちの世界を混乱させるために、
なんでも願いが叶う宝石を生み出したのだ、と。
その宝石の企みを阻止するため生きてきたオレサマは、
当然、その生み出した同位体とやらも憎んだ。
同位体の名前も聞いた。フェイテルっていうんだぜ?
--------------
「お前、あのときのチビか」
「……そうだ」
声が聞こえなくなってきた。おお、早く決断しないとヤバそうだな。
「わかったよ。昔のよしみで手伝ってやらぁ」
オレサマが言うと、すっと体が軽くなった。
つい、自分の体を見る。
懐かしい緑のマフラーが見えた。
憎らしいオーブが填められた甲冑も見えた。
腰には大量のナイフがぶら下がっている。
体を動かしてみる。
ふわふわと漂い、声の主を探して、その横に着陸してみる。
「なんだ。またオバケかよ」
オレサマは文句を言ってみた。しかし少年はスルー。
「…たく。でもこの質問には答えてもらうぞ。お前、名前なんだ?」
少年がこちらを向いた。が、すぐに目を閉じた。
また無視する気か、と思ったが、それは杞憂で。
「…デスティニー」
ああ、フェイテルが宿命で。こいつは運命だったのか。
「ちと…本名で呼ぶとやばそうだな。なんかあだ名考えねーと」
「本名ではない。もともと我々に名前という概念は無い。
ただ、役割で相手を判別しているだけだ」
いや、それを名前っていうんじゃねーの? とは思ったが、
オレサマは余計なことだと思い、放っておくことにする。
「ならば…シン、と呼んでもらえるか?」
意外な提案にオレサマは驚いた。
「どこからでてきたその名前」
するとデスティニーはどこからかベージュのローブを取り出して羽織ながら言った。
「以前、ヒトの世に言った際、貰った名だ」
そんなことしていたのか。
確か殺し合いしていたときは自分はここの番人だ動かない、って言っていた気が
するんだが。しかし、オレサマの現状に全く関係ないことなんで、追求はやめた。
そしてオレサマは問う。
「で? フェイテルを倒す協力って、具体的になにをすればいいんだ?」
「今、フェイテルがいる、ここのルールと、フェイテルの状態を教えてもらいたい。
わかる範囲で構わない」
--------------
オレサマはフェイテルがこの島のモノにはボコボコにやられることも
少なくないことを伝えた。そのため邪心を行使して、散歩をしていると。
そこでオレサマはこの島でならフェイテルを殺せるかもしれないと試してみたって
わけさ、と言った。
デスティニー…じゃなかった、シンは、
・フェイテルはここでは一般人と変わらない
・しかしある程度の宿命は見れる
・管理している世界のモノの宿命は見ることも、宿命を操ることもできる
と、まとめた。
「あまり参考にならねーな、これ」
オレサマはそう言って、ナイフをプラプラさせた。
シンも考え込んでいた。
「やはり…私が倒すか」
「あン!?」
オレサマは声を上げる。
「お前だって、フェイテルの“私には勝てないわよ”の呪い…いや
宿命の下にいるんだろ?」
こくり。頷く頭。
「そうだ。その宿命があるから、他の司達は滅んでいった」
「なんだってぇ!?」
司というのは、世界が無事に動いているか見守る存在たちだ。
それがいなくなってるというのかよ。
「私のせいでな。フェイテルが、宿命を見守るだけでなく、宿命を
植えつけていることを親しかった司に相談してしまったんだ。
それで、司の頭が動き、フェイテルに勝負を挑んだ」
その結果が全滅かよ。
「クソッ、胸糞が悪いぜ。なんとしてもぶっ殺してやる。その手段があるなら、
オレサマはどんな手も使うぜ」
ぐさり。
ナイフを地面に叩きつけるように投げた。
「他の司達は…運命を守るものがいなくなったら、それこそ不幸な人々が増えると
言って私を戦に連れて行かなかった。その遺志に逆らわないよう、
ずっと私は運命を見守っていた。だが…」
今まで濁っていたシンの瞳に突如力が宿る。
「あのときの決断は間違っていた。私はなんて臆病なんだ。
私は何故、ここまで非力なんだ!」
――エリアスに、聞いた。
自分はデスティニーが捨てた感情の生まれ変わりなのだと。
けどよ。
今のコイツを見て確信した。
感情は捨てれるものじゃない。
オレはシンの手を握り締めて言った。
「決断を間違えたら、やり直せばいいだろうが!
それは多くのものが帰ってこないんだろうよ。でも放置していればどんどん状況は
悪くなる! お前は臆病じゃない、動き出したんだ、オレはなんでも協力する、
いや、あの女はオレが殺す!」
シンは瞳を見開いてオレを見た。
「お前が…どうやって…」
そこを突っ込まれて返答に詰まるオレ。
「だってよ」
どうしても、コイツにフェイテル殺しはさせたくなかった。
「事情はわかった。でも、フェイテルってお前の姉貴みたいなモンだろ?
姉殺すことに抵抗は無いのか?」
まだシンはオレを見つめたままだ。
「そりゃよ。あいつは憎い。でも、お前じゃなきゃダメなのか?
お前の力をオレサマに付加するとかなんとかして、代わりにはなれねーのか?」
シンは、長い沈黙のあと、そっと首を振った。
オレサマもただ黙って、その姿を見ていた。
※すいません、昔の日記と矛盾しているところがあると思います。
昔の日記を確認する時間がありませんでした。チキンレーサーなもので。
~文章が好き! 第四回イベント ザ・ベストバウト 参加作品~
こんにちは、カルニアです。
ベストバウトに触れる前に、私たちについて語っておきます。
いかんせん、大人数ですからね。
・フェイテル様:基本立っているだけです。召喚術を使われることもあります。
・シャル:状態異常がついている技は彼が撃つので、ほとんどの技担当ですね。
・私(カルニア):純粋な魔法を撃ちます。
所詮は職人ですから、戦闘より交流重視です。
・エリアス:通常攻撃、純粋な攻撃術です。
あとフェイテル様を担いで逃げるのも彼の仕事だったりします。
・フォーゼさん:…なにやっているんでしょう?
獣系と鏡系の術を使うときに顔を出しますね。
・ガンマ:このときはもういませんでした…ですが、普段は鉱石を生物に変える術
(分類上は召喚ですね)を使います。
私たちは、基本的に自分たちだけで行動していました。
しかし、ずっと同じところをくるくる回ることにフェイテル様が
飽きてしまわれたのです。
そして、ギルド「ソロ相互協力組合 GalaSy」に同行してくださる方がいないか
探しに行ったそうです。
それから長い時間が経ちました。親切な方が同行する話に乗ってくださったのです。その方とは今も交流がありますね。いろいろアドバイスしてくださる、
いい先輩です。
その方と、突破しなければ冒険場所が広がらないポイントを2箇所攻略しました。
これをベストバウトにしてもいいのですが、フェイテル様、
特になにもしていませんからね。同行者さまさまです。
問題は別れた後。
別れて、ヘッドルーツを取りに行ったときの話です。
「床に滞在するなんてドキドキだね! 平原にいるときでもドキドキなのに!」
シャルはあまり緊張感がありません。いつものことですが。
エリアスはストレッチをしていました。おそらく、フェイテル様を連れて
逃げ回ることができるようにの準備でしょう。
フォーゼさんは狼の姿になって、辺りの匂いを嗅いでいました。
おや、1匹蛇が捕まったようです。ご愁傷様。
私は目を閉じて、頭の中にある大量のデータを再読していました。
フェイテル様は水晶を覗いて、同行者さんはすごいわねーなどと言っていました。
おそらく、これから私たちに降りかかるであろう災難と直面している彼女の
観察をしているのでしょう。
そこへかけられた声。
「レッサーと言えどこのパワーッ! さすが私といったところかッ!!」
何事ですか。
目を開けてみると、見るからに魔物な、腕が2対生えている赤い生き物が
私たちの前にいました。
フェイテル様はのほほんと、私たちに声をかけます。よろしくね、と。
またなにもしないつもりなのでしょうかね…?
さて、同行者さんに教えていただいた戦法で、なんとか戦ってみましょうか。
私はフェイテル様をお守りする影を呼び出しました。
これはもしフェイテル様が倒れても、代わりに消滅するという素晴らしい魔術です。
なかなかやり手の魔術師からいただき…いえ、教えていただいたもの。
フォーゼさんは獣を召喚しました…いえ、召喚したつもりでした。
出てきたのは偽妖精。これ、獣だったんですか? と私が突っ込む前に
フォーゼさんはあちゃーと言って、また蛇を食べ始めました。
エリアスはすたすたと前線に出て行きました。
私は相手を観察します。どうやら、レッサーデーモンという名前のようです。
だからってレッサーって連呼しなくてもいいのにと思いました。
レッサーについて私がなにか勘違いしているのでしょうか?
違いますよね、蔑称ですよね。うーん、蔑称は少し言いすぎでしょうか。
レッサーデーモンは黒雲を召喚してきました。しかも2回連続で。
素早いですね。それともこちらが単に遅いだけでしょうか。
エリアスがらしくない術を唱えました。こちらのスピードが上がります。
…あっちのスピードも上がりましたがね。
レッサーデーモンは再び2回行動。じりじりフェイテル様の体力が減っていくのが
わかります。
先ほどの汚名返上でしょうか? エリアスはさらに前へ飛び出すと剣を構え、
相手を睨みつけました。
その後ろで、フェイテル様がとんでもないことを言い出しました。
「私と一緒に、逝きましょう?」
逝っちゃダメですよー!
そんなことを思っている間に、フォーゼさんが呼び出した偽妖精は
倒れてしまいました。それに比べレッサーさんはピンピンしています。
まずい…さすがにまずいです…
エリアスは構えから、レッサーデーモンに向かってかまいたちを放ちました。
続けて一撃。しかし、レッサーさんがこちらに与えてくるダメージと比べては
かわいいもの。
それが何回続いたか…
フェイテル様のライフが0以下になりました。
私は慌てて影の魔術を唱えます。すぐにそれが効果を示し、フェイテル様は
お元気のようです。道連れは失敗してしまったようですが。
これから先、あまり鮮やかではない戦いが続きました。
それなのになぜベストバウトなのか。
それは床地形で、しかもフェイテル様が倒れなかったからです。
最近はこの手段もなかなかうまくいってくれないんですよね~。
エリアスがかまいたちを飛ばし、剣を振る。
私はフェイテル様が危なくなったら、影をつくる。
そしてフェイテル様の影が消え、道連れをする光がレッサーデーモンを貫きます。
その繰り返しでした。
ふと、フォーゼさんが言いました。
「エリアス、君の可能性の力を借りるよ。」
それにエリアスは答えませんでした。おそらく忙しくてそれどころでは
ないのでしょう。しかしなんでしょう、エリアスの可能性って。
フォーゼさんとは出会ったばかりだったのですが、いえ、出会ってある程度
時間が経った今も、よくあの方のやることはわかりません。
なにせ、エリアスの力を使ったはずなのに、祝福の光が
空から降ってきたんですよ! あの破壊おバカさんからそんなものを引き出すって
どういうことなんでしょう。
隙あらばデータを取って解析しなくてはいけませんね。
私の影の力は莫大で、影が消えるときに残していく生命力だけでフェイテル様は
涼しい顔で立っておられるのでした。
それに対してレッサーデーモンはエリアスのかまいたちと攻撃と道連れ効果で
確実に弱っていきました。
これはフェイテル様がすぐ倒れてしまう!
そう思っていた私の心配がどこかへ飛んでいく感じです。
…そういえば気がついたのですが、シャル、なにもしてませんね。
そして…
勝っちゃいました。粘り勝ちしてしまいました。
術唱えっぱなしの私は疲れましたが、フェイテル様を守りきれたことのほうが
重大です。
「やったねカル!」
シャルがハイタッチを求めてきました。私もそれに応え、手を叩きながら
魔力をいただきました。
「ぎゃー、ヒドイ! 勝利の余韻に浸っててよ! こんなときでもお食事なのか!」
「いえ。こんなときだからこそお食事ですよ。私、疲れました」
「いや、フェイテルサマから魔力もらって技使ってるんでしょ!
なんで疲れるの!」
ぷう。シャルは頬を膨らませました。
「貴方も魔術師ならわかるでしょうに。魔力だけで魔術は発動しないのですから」
「そりゃそうだけどー。でも、貴重なボクのデータ、とーらーれーたー」
やはり不機嫌なシャル。
「なにもしない貴方がいけないんですよ」
あっさり切り捨てて、私はエリアスに近づきました。びくりとその肩が動いたのが
目視できます。
「なにもしませんよ。おつかれさまでした。
今後もこんな感じでいけるといいですねー」
にこにこと笑顔で言ってみます。エリアスはちらりと私のほうを見て、
ふう、と一息つきました。
「今日はあまりフェイテルを回避させられなかった…」
「いいではありませんか。勝利できたのは、私たちの協力の結果なのですから」
そう言って、私は手を差し出しました。いつもとは違い、エネルギーやデータを
取るつもりはなく、この貴重な勝利を共に分かち合おうと思ったのです。
ですが、出てきたのは剣の柄でした。
「いやぁ、警戒しないでくださいよぅ~」
「日ごろの行いが悪いと思い、諦めろ」
悲しいですが、その通りですね。私は剣の柄を握ると、おつかれさまでした、
と精一杯の笑顔を向けました。エリアスがぷい、とそっぽを向きましたが、
これはこれでいいのでしょう。
いかがだったでしょうか。
基本的に単調な戦いになってしまう私たちですので、あまり面白みは無かったと
思いますが、この勝利は誰もが予想しなかった結果でした。
それだけ印象深かったですね。
こんにちは、カルニアです。
ベストバウトに触れる前に、私たちについて語っておきます。
いかんせん、大人数ですからね。
・フェイテル様:基本立っているだけです。召喚術を使われることもあります。
・シャル:状態異常がついている技は彼が撃つので、ほとんどの技担当ですね。
・私(カルニア):純粋な魔法を撃ちます。
所詮は職人ですから、戦闘より交流重視です。
・エリアス:通常攻撃、純粋な攻撃術です。
あとフェイテル様を担いで逃げるのも彼の仕事だったりします。
・フォーゼさん:…なにやっているんでしょう?
獣系と鏡系の術を使うときに顔を出しますね。
・ガンマ:このときはもういませんでした…ですが、普段は鉱石を生物に変える術
(分類上は召喚ですね)を使います。
私たちは、基本的に自分たちだけで行動していました。
しかし、ずっと同じところをくるくる回ることにフェイテル様が
飽きてしまわれたのです。
そして、ギルド「ソロ相互協力組合 GalaSy」に同行してくださる方がいないか
探しに行ったそうです。
それから長い時間が経ちました。親切な方が同行する話に乗ってくださったのです。その方とは今も交流がありますね。いろいろアドバイスしてくださる、
いい先輩です。
その方と、突破しなければ冒険場所が広がらないポイントを2箇所攻略しました。
これをベストバウトにしてもいいのですが、フェイテル様、
特になにもしていませんからね。同行者さまさまです。
問題は別れた後。
別れて、ヘッドルーツを取りに行ったときの話です。
「床に滞在するなんてドキドキだね! 平原にいるときでもドキドキなのに!」
シャルはあまり緊張感がありません。いつものことですが。
エリアスはストレッチをしていました。おそらく、フェイテル様を連れて
逃げ回ることができるようにの準備でしょう。
フォーゼさんは狼の姿になって、辺りの匂いを嗅いでいました。
おや、1匹蛇が捕まったようです。ご愁傷様。
私は目を閉じて、頭の中にある大量のデータを再読していました。
フェイテル様は水晶を覗いて、同行者さんはすごいわねーなどと言っていました。
おそらく、これから私たちに降りかかるであろう災難と直面している彼女の
観察をしているのでしょう。
そこへかけられた声。
「レッサーと言えどこのパワーッ! さすが私といったところかッ!!」
何事ですか。
目を開けてみると、見るからに魔物な、腕が2対生えている赤い生き物が
私たちの前にいました。
フェイテル様はのほほんと、私たちに声をかけます。よろしくね、と。
またなにもしないつもりなのでしょうかね…?
さて、同行者さんに教えていただいた戦法で、なんとか戦ってみましょうか。
私はフェイテル様をお守りする影を呼び出しました。
これはもしフェイテル様が倒れても、代わりに消滅するという素晴らしい魔術です。
なかなかやり手の魔術師からいただき…いえ、教えていただいたもの。
フォーゼさんは獣を召喚しました…いえ、召喚したつもりでした。
出てきたのは偽妖精。これ、獣だったんですか? と私が突っ込む前に
フォーゼさんはあちゃーと言って、また蛇を食べ始めました。
エリアスはすたすたと前線に出て行きました。
私は相手を観察します。どうやら、レッサーデーモンという名前のようです。
だからってレッサーって連呼しなくてもいいのにと思いました。
レッサーについて私がなにか勘違いしているのでしょうか?
違いますよね、蔑称ですよね。うーん、蔑称は少し言いすぎでしょうか。
レッサーデーモンは黒雲を召喚してきました。しかも2回連続で。
素早いですね。それともこちらが単に遅いだけでしょうか。
エリアスがらしくない術を唱えました。こちらのスピードが上がります。
…あっちのスピードも上がりましたがね。
レッサーデーモンは再び2回行動。じりじりフェイテル様の体力が減っていくのが
わかります。
先ほどの汚名返上でしょうか? エリアスはさらに前へ飛び出すと剣を構え、
相手を睨みつけました。
その後ろで、フェイテル様がとんでもないことを言い出しました。
「私と一緒に、逝きましょう?」
逝っちゃダメですよー!
そんなことを思っている間に、フォーゼさんが呼び出した偽妖精は
倒れてしまいました。それに比べレッサーさんはピンピンしています。
まずい…さすがにまずいです…
エリアスは構えから、レッサーデーモンに向かってかまいたちを放ちました。
続けて一撃。しかし、レッサーさんがこちらに与えてくるダメージと比べては
かわいいもの。
それが何回続いたか…
フェイテル様のライフが0以下になりました。
私は慌てて影の魔術を唱えます。すぐにそれが効果を示し、フェイテル様は
お元気のようです。道連れは失敗してしまったようですが。
これから先、あまり鮮やかではない戦いが続きました。
それなのになぜベストバウトなのか。
それは床地形で、しかもフェイテル様が倒れなかったからです。
最近はこの手段もなかなかうまくいってくれないんですよね~。
エリアスがかまいたちを飛ばし、剣を振る。
私はフェイテル様が危なくなったら、影をつくる。
そしてフェイテル様の影が消え、道連れをする光がレッサーデーモンを貫きます。
その繰り返しでした。
ふと、フォーゼさんが言いました。
「エリアス、君の可能性の力を借りるよ。」
それにエリアスは答えませんでした。おそらく忙しくてそれどころでは
ないのでしょう。しかしなんでしょう、エリアスの可能性って。
フォーゼさんとは出会ったばかりだったのですが、いえ、出会ってある程度
時間が経った今も、よくあの方のやることはわかりません。
なにせ、エリアスの力を使ったはずなのに、祝福の光が
空から降ってきたんですよ! あの破壊おバカさんからそんなものを引き出すって
どういうことなんでしょう。
隙あらばデータを取って解析しなくてはいけませんね。
私の影の力は莫大で、影が消えるときに残していく生命力だけでフェイテル様は
涼しい顔で立っておられるのでした。
それに対してレッサーデーモンはエリアスのかまいたちと攻撃と道連れ効果で
確実に弱っていきました。
これはフェイテル様がすぐ倒れてしまう!
そう思っていた私の心配がどこかへ飛んでいく感じです。
…そういえば気がついたのですが、シャル、なにもしてませんね。
そして…
勝っちゃいました。粘り勝ちしてしまいました。
術唱えっぱなしの私は疲れましたが、フェイテル様を守りきれたことのほうが
重大です。
「やったねカル!」
シャルがハイタッチを求めてきました。私もそれに応え、手を叩きながら
魔力をいただきました。
「ぎゃー、ヒドイ! 勝利の余韻に浸っててよ! こんなときでもお食事なのか!」
「いえ。こんなときだからこそお食事ですよ。私、疲れました」
「いや、フェイテルサマから魔力もらって技使ってるんでしょ!
なんで疲れるの!」
ぷう。シャルは頬を膨らませました。
「貴方も魔術師ならわかるでしょうに。魔力だけで魔術は発動しないのですから」
「そりゃそうだけどー。でも、貴重なボクのデータ、とーらーれーたー」
やはり不機嫌なシャル。
「なにもしない貴方がいけないんですよ」
あっさり切り捨てて、私はエリアスに近づきました。びくりとその肩が動いたのが
目視できます。
「なにもしませんよ。おつかれさまでした。
今後もこんな感じでいけるといいですねー」
にこにこと笑顔で言ってみます。エリアスはちらりと私のほうを見て、
ふう、と一息つきました。
「今日はあまりフェイテルを回避させられなかった…」
「いいではありませんか。勝利できたのは、私たちの協力の結果なのですから」
そう言って、私は手を差し出しました。いつもとは違い、エネルギーやデータを
取るつもりはなく、この貴重な勝利を共に分かち合おうと思ったのです。
ですが、出てきたのは剣の柄でした。
「いやぁ、警戒しないでくださいよぅ~」
「日ごろの行いが悪いと思い、諦めろ」
悲しいですが、その通りですね。私は剣の柄を握ると、おつかれさまでした、
と精一杯の笑顔を向けました。エリアスがぷい、とそっぽを向きましたが、
これはこれでいいのでしょう。
いかがだったでしょうか。
基本的に単調な戦いになってしまう私たちですので、あまり面白みは無かったと
思いますが、この勝利は誰もが予想しなかった結果でした。
それだけ印象深かったですね。
「ガンマ。あなたはいったい何者なんですか?」
カルニアの言葉に、ガンマは「あん?」という顔で、自分の創造主を見てやった。
「お前の部下だろうが。なに今更言ってるんだよ。昨日、自分で作り直しただろ?」
そう答えてガンマは相手の反応を見る。
カルニアは真顔だった。それから眉をしかめ、目をぎゅっと閉じた。
「私…見ちゃったんですよ」
「なにを」
超反応で返ってくる言葉。
そうだ、この子は自分より遥かに身軽だ。
そこでどうして気がつかなかったのだろう。
「私は魔法は得意です。でも物理攻撃はあんまり…空も自力では飛べませんし、
身軽な戦いなんてできない」
自分の投げかけた問いの答えではなかったことに、ガンマは眉をつり上げ、
とんとんとん、と寝そべっている岩を叩いた。
「何が言いたいんだよ」
「貴方と私は違いすぎます。その力はどこで手に入れたものなのですか」
すると、ガンマは岩の上に身を起こした。
「そういう風になるよう設計したんじゃねーのかよ? 自分に足りないものを
部下にフォローさせる。自由に設定できるなら、そういうことするのも
なんもおかしくねぇだろ? オレサマに聞くな」
ひらり。
カルニアの前に飛び降りるとガンマは腰を折り視線を同じ高さに持ってくると、
指でカルニアの眉間をツンツンやった。
「無計画で適当に作られたのか、オレサマ? 違うだろ? ああん?」
明らかに不機嫌。しかし発する言葉に間違いはない。
「相手が悪いですね…」
ぽつりとつぶやくカルニア。
「あれを見ていなかったら、私は一生気がつかなかったかもしれない」
まだはっきりしないカルニアに、ガンマは薙刀を突きつけた。
「ごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇよ。うぜえ」
カルニアは下を向いて、唇をかむと、キッと視線を上げて言った。
「では単刀直入に。
創造の儀式の最後、魂が宿る段階で、私は何者かの接近を感じて
目を開けたんですよ。
そうしたら、見たこともない男が貴方の中に入っていった。
それなのに出来上がったガンマは、正真正銘ガンマで。歪みもなくガンマで」
ガンマの表情がすとんと無くなった。
「フェイテル様に壊されたはずのガンマで…つまり、あの見たことの無い男が
ガンマの魂だったということになりますよね。まさか、魂が二つ宿って共同生活、
なんていう面倒なことは考えにくいですから」
「そうかよ」
ガンマは薙刀を消すと、額に手を当て、あーあ、と言った。
ガンマの頭が素早く回転しはじめる。
(さて、自分だけが例外と言ってコイツは信じるだろうか。下手すると他の連中にも
迷惑がかかるぞ…そもそもコイツ、自分が魂練成できないの知らねぇから
困ったもんだぜ。まあ知らないから皆助かっているわけなんだが)
ガンマを含む、4人のカルニアの部下たち。
彼らはそれぞれ人間の魂が分身生成の際にまぎれて人格を宿しているのだが、
それをカルニアには伝えていなかった。
なぜなら、その元の魂の正体がばれてしまっては困る者が二人ほどいるからだ。
その二人のことに触れないよう気をつけて、ガンマは創造主を誤魔化そうと
口を開く。
――そんなこと、これっぽっちも考えていないふりをして。
「なんだ、見てたのかよ。そうだぜ? あれがオレサマの前世。
お前が始めて『ガンマ』を生成したとき、適当にそこらへんを漂っていた魂を
捕まえて、中に入れたんだよ」
腰に手を当てて、先ほどまで寝そべっていた岩に今度は寄りかかる。
「その瞬間、魂は変質して、ガンマになった。だから前世のことなんか、
すっかり忘れていたんだよ。だけど今回の事態で前世に戻っちまったんだ」
嘘半分。事実半分。偽りの邪心をも騙す口。
「フェイテルにばらばらにされたオレサマの魂をつなぎとめてくれた奴がいた」
「そんなこと、できる人がいるわけ…」
カルニアは途中まで言った。が、そこで固まり、真っ青になった。
「ま、さ、か…」
「オレサマの前世はよ、20番目の世界の人間だったんだ。あいつは言ったぜ。
6番目の世界の邪霊は助けられないが、20番目の世界の人間の魂なら救えるとな」
―― 私は1から10までの邪心、邪霊を自由に使えるの。
残り、11から20は弟の管轄になっているわ。――
カルニアの脳裏に、かつてフェイテルから聞いた言葉が響く。ガンマに、
自分の推測が正しいのか確認するのを恐れながらも、カルニアは口を開いた。
「………その人とは、フェイテル様の、弟、様、ですか?」
完全に怯えているカルニアを見て、こりゃ愉快だぜとガンマは笑う。
「そ」
そして一文字で肯定すると、カルニアの頭をぼふぼふ叩いた。
「フェイテルの様子を見に来たらしいぜ。そろそろ腹くくらねぇといけなくなった
みたいだな、お前ら」
力関係など全く気にしないガンマは、自分の創造主をからかってケラケラ笑い、
固まっている(しかし小刻みに震えている)彼を置いて、森の奥へと去っていった。
カルニアの言葉に、ガンマは「あん?」という顔で、自分の創造主を見てやった。
「お前の部下だろうが。なに今更言ってるんだよ。昨日、自分で作り直しただろ?」
そう答えてガンマは相手の反応を見る。
カルニアは真顔だった。それから眉をしかめ、目をぎゅっと閉じた。
「私…見ちゃったんですよ」
「なにを」
超反応で返ってくる言葉。
そうだ、この子は自分より遥かに身軽だ。
そこでどうして気がつかなかったのだろう。
「私は魔法は得意です。でも物理攻撃はあんまり…空も自力では飛べませんし、
身軽な戦いなんてできない」
自分の投げかけた問いの答えではなかったことに、ガンマは眉をつり上げ、
とんとんとん、と寝そべっている岩を叩いた。
「何が言いたいんだよ」
「貴方と私は違いすぎます。その力はどこで手に入れたものなのですか」
すると、ガンマは岩の上に身を起こした。
「そういう風になるよう設計したんじゃねーのかよ? 自分に足りないものを
部下にフォローさせる。自由に設定できるなら、そういうことするのも
なんもおかしくねぇだろ? オレサマに聞くな」
ひらり。
カルニアの前に飛び降りるとガンマは腰を折り視線を同じ高さに持ってくると、
指でカルニアの眉間をツンツンやった。
「無計画で適当に作られたのか、オレサマ? 違うだろ? ああん?」
明らかに不機嫌。しかし発する言葉に間違いはない。
「相手が悪いですね…」
ぽつりとつぶやくカルニア。
「あれを見ていなかったら、私は一生気がつかなかったかもしれない」
まだはっきりしないカルニアに、ガンマは薙刀を突きつけた。
「ごちゃごちゃ言ってるんじゃねぇよ。うぜえ」
カルニアは下を向いて、唇をかむと、キッと視線を上げて言った。
「では単刀直入に。
創造の儀式の最後、魂が宿る段階で、私は何者かの接近を感じて
目を開けたんですよ。
そうしたら、見たこともない男が貴方の中に入っていった。
それなのに出来上がったガンマは、正真正銘ガンマで。歪みもなくガンマで」
ガンマの表情がすとんと無くなった。
「フェイテル様に壊されたはずのガンマで…つまり、あの見たことの無い男が
ガンマの魂だったということになりますよね。まさか、魂が二つ宿って共同生活、
なんていう面倒なことは考えにくいですから」
「そうかよ」
ガンマは薙刀を消すと、額に手を当て、あーあ、と言った。
ガンマの頭が素早く回転しはじめる。
(さて、自分だけが例外と言ってコイツは信じるだろうか。下手すると他の連中にも
迷惑がかかるぞ…そもそもコイツ、自分が魂練成できないの知らねぇから
困ったもんだぜ。まあ知らないから皆助かっているわけなんだが)
ガンマを含む、4人のカルニアの部下たち。
彼らはそれぞれ人間の魂が分身生成の際にまぎれて人格を宿しているのだが、
それをカルニアには伝えていなかった。
なぜなら、その元の魂の正体がばれてしまっては困る者が二人ほどいるからだ。
その二人のことに触れないよう気をつけて、ガンマは創造主を誤魔化そうと
口を開く。
――そんなこと、これっぽっちも考えていないふりをして。
「なんだ、見てたのかよ。そうだぜ? あれがオレサマの前世。
お前が始めて『ガンマ』を生成したとき、適当にそこらへんを漂っていた魂を
捕まえて、中に入れたんだよ」
腰に手を当てて、先ほどまで寝そべっていた岩に今度は寄りかかる。
「その瞬間、魂は変質して、ガンマになった。だから前世のことなんか、
すっかり忘れていたんだよ。だけど今回の事態で前世に戻っちまったんだ」
嘘半分。事実半分。偽りの邪心をも騙す口。
「フェイテルにばらばらにされたオレサマの魂をつなぎとめてくれた奴がいた」
「そんなこと、できる人がいるわけ…」
カルニアは途中まで言った。が、そこで固まり、真っ青になった。
「ま、さ、か…」
「オレサマの前世はよ、20番目の世界の人間だったんだ。あいつは言ったぜ。
6番目の世界の邪霊は助けられないが、20番目の世界の人間の魂なら救えるとな」
―― 私は1から10までの邪心、邪霊を自由に使えるの。
残り、11から20は弟の管轄になっているわ。――
カルニアの脳裏に、かつてフェイテルから聞いた言葉が響く。ガンマに、
自分の推測が正しいのか確認するのを恐れながらも、カルニアは口を開いた。
「………その人とは、フェイテル様の、弟、様、ですか?」
完全に怯えているカルニアを見て、こりゃ愉快だぜとガンマは笑う。
「そ」
そして一文字で肯定すると、カルニアの頭をぼふぼふ叩いた。
「フェイテルの様子を見に来たらしいぜ。そろそろ腹くくらねぇといけなくなった
みたいだな、お前ら」
力関係など全く気にしないガンマは、自分の創造主をからかってケラケラ笑い、
固まっている(しかし小刻みに震えている)彼を置いて、森の奥へと去っていった。