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定期更新型ネットゲーム「Ikki Fantasy」「Sicx Lives」「Flase Island」と「Seven Devils」、「The Golden Lore」の記録です。

カテゴリー「定期日誌」の記事一覧
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シャルが、過去、出会った者との距離を測りかねている。
しかし自分は、今の距離でいいと考える。
これ以上近い距離になれば、彼女の歩んできた道を知るだろう。
そして知った以上、なにかしら行動を起こしたいと考えるだろう。
だが無理なのだ。
根本的にあの竜は、ヒトとは違うのだから。

シャルがヒトに憧れるようになったのはかの者の一生から見ると、
大変古い頃からだ。
天空竜の一生で例えれば、あの者はまだまだ生きる。
人間換算すればまだ三十代というのも間違ってはいない。
だから、仮にシャルの生まれてから今までの時間を十と例える。
そうすれば、彼は一のときからヒトに憧れていたといっていい。

天空竜に限らないことで、四属性竜には子供時代というものがない。
存在するようになったときから成竜だった。
彼らを作ったものはない。
我々と同じで、エンティが生まれたときには存在していた、自然の一部である。
エンティがどのようにして生まれたのかは、私もわからない。
私が存在した時には、エンティには世界の土台が二十あり、
元素となるものも存在していた。
そして、それ以降なにかが増えることも無かった。
話が逸れた。

自然の一部でありながら、四属性竜はヒトと接点があった。
それがそもそもの間違いだったのかもしれぬ。
力を持つ者は、ヒトの不完全さにいら立っていくのだった。
が、同時に不完全さを愛する者も出た。

それが、シャルだ。

そして兄姉といえる他の竜たちと意見を異にすることも恐れず、彼は人を愛した。
一番極度にシャルと意見をぶつけたのは兄のシーザー。
他の二竜は簡潔に言えば、どちらでもあった。不完全さにいら立ちを覚えながら、
憎むこともできなかったどっちつかずである。
シャルは、ヒトの不完全さにいら立つという意見も認めながら、
自分はヒトを愛したいと訴えた。
が、完璧主義でもあったシーザーはそれを許さなかった。
結果、ヒトの邪気を消すという極論にまで走っていく。
それを止めるため、シャルは邪気を受け持つと言い、
邪なるものと呼ばれるようになる。

しかしシャルとはとことん変わった男である。
とにかく矛盾しているのだ。

優しく、残酷で。
正直で、嘘つきで。
自分の道を信じ、自分を一番信じず。
ヒトの未来を信じ、自分の未来は見ず。
正義は嫌いだという正義を持ち。
絶対なんて無いと、絶対に言い張り。
――子を求め、蔑ろ(ないがし・ろ)にする者。

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····· イラスト解説

(1回休み)



ぶっ倒れていたので、お休みです。
Jさんが自分をネタにしてくれていたのにー!
雁竜クンとこで、Jさんの背景がわかったのにー!

お二方ともキャラ名は別名(ついでにオイラも)なので、意味不明ですね。
リンクつけておこう。ぺたぺたぺた~♪

あ。
遺跡外の人が少ないんで、依頼受注し損ねたこともメモしておきます。
「終末のときも近いわね」
フェイテルがシャルの肩の上で、
自分と同じくらいの大きさの水晶を浮かべながら言った。
「ああ、私のお店ー…」
カルニアは涙目だ。
いきなり遺跡の最下層に連れてこられ、商売はできているものの、
店が無いので買い物ができないのだ。
「いつお前の店になったのだ…」
エリアスは呆れ顔だ。
「しかし、食べ物が買えないのは確かに困るよ? おなかがすくじゃないか」
フォーゼはそう言いながら、今回の強制召喚に部下が巻き込まれなくて
よかったと思っている。自分の国的な意味で。
シャルはその間、黙っていた。

そしてふいに。フェイテルをフォーゼの頭に乗せて、こう言った。
「ねぇみんな。ボク、遺跡外に戻るよ」
「え、それってありですか?」
「敵から逃げるのか…!?」
「いいよ。その代わりお土産よろしくね?」
即座に反応が返ってきたことに、シャルはくしゃっと顔をゆがめる。
――申し訳ないと、思ったからだろうか。
「ボク、このままじゃ、使い物にならないから、さ…」
それだけ言って、すぐに消える。
他の者たちが反応する隙すら、与えなかった。

---------------
遺跡外に出るのはあっけなかった。
しかしそれに対する感想が浮かぶわけではなかった。
ただシャルの頭の中は、あることでいっぱいなのだ。

---------------
「どうしたんでしょうね、シャル。壁がいなくなって、普通に困るのですが…」
カルニアは誰に問うわけでもなく、呟いた。
「敵前逃亡…とは違う雰囲気だった」
「もう。あなたの真実の瞳で見抜いてしまえばよかったのに」
「ふむ…」
エリアスは悪くないなと思う。
足りない頭で考えた結果だ。シャルに聞いても答えは返ってこないだろうと
思ったのだ。
それは嘘をつくつもりがある、とかではなくて、
シャル自身もわからないことではなかろうかと。
シャルに限ってそんなことが存在するとは思っていなかったのだが、
彼が目を泳がせたことで察した。
いかんせん、エリアスは自分の考えがよくわからなくなって、
視線を泳がせることが多いから。
「…やめておいて正解だったと思うの」
フェイテルがぽつりと呟いた。
「そうだよね。人の心を覗くのは良くないよ」
フォーゼが続ける。
「あ、そういう、わけでは…ない」
エリアスは慌てて否定した。ただ、シャルが困っているようだったから、
答えを導きたかっただけ。
そう言おうと思ったのだが。
「あー…そうですね。私も勝手に心を覗かれるのはイヤですよ? というわけで、
エリアス、今後、私に真実の瞳を使うのも禁止です」
にこにことカルニアが妨害する。
それに対して、エリアスはすぐさま鞘でカルニアをポカン、とやった。
「痛ーっ! 口で答えられないからって、ひどいじゃないですかぁ!」
「そうではないの」
フェイテルは騒ぎを気にしていないかのように言った。
デスティニーに至っては最初から全面無視である。というか、デスティニーの場合、
なにもかも無視するのがデフォルトだ。
「もし、今のシャルにちょっかいを出したら…殺されるわ」
『え? そんな馬鹿な』
3人の声がハーモニーする。
それに対して、フェイテルは下を向き、反論ではない言葉を紡いだ。
「…そんな気が、しただけ…」

-----------------
シャルは人間が大好きだ。
人外も、まあまあ好きだ。
よって、相手を困らせるために呪いをかけることは始終しょっちゅう平常運転
なのだが、命を奪うことは極力避ける。
しかし、そんなシャルも触れられたくないことは、ある。
そして触れた相手には激怒、するのだ。

実は過去のフェイテルがそれに触れてしまったことがある。
そのとき、シャルはなにもかも放り捨てて、フェイテルを殺そうとした。
たとえ殺せなくても。
その結果自分が死ぬことになっても。
その結果自分に与えられた「守護」ができなくなるとわかっていても。
わかっていても、シャルはフェイテルに襲い掛かった。

このときのフェイテルは、彼女にしては珍しく悪意は無かったのだ。
ただ、シャルが想ってやまない主の名が、偽名だと教えようとしただけなのである。
あまりにもシャルがその名前に執着しているため、かわいそうだと思って。

--------------
「懐かしい気配がしたんだ」
シャルはぽつりと呟く。
「でも…ちょっと違うんだ…」
ただひたすらに、歩く。
「気になるんだ…」
でも歩く速度は、非常に遅くて。
「怖いんだ…」
同じところを知らず知らず回っていたり。
「なんだか、知ってはいけないことを知ってしまいそうな気がするんだ…」
けれど、ある方向へ確実に進んでいく。
「だけど、会いたい…」
シャルの声と内なる声が重なる。
「ボクを変えたあの人に――」
『我を変えたJ・フェブラリーに――』
                      あいたい!

----------------
そして、ほどなくして、シャルは捜し求めていた人を見つける。
変わっていなかった。
なんといえばいいのだろう。
外面も、内面も、美しいひと。
シャルは黒鳥のような人だと思っていた。
そんな人が、いた。

だが、先客がいたので、思わず身を隠す。
心臓の音が、シャルの頭の中でドクドクと音を立てる。
そして、言葉は聞こえなかったが、二人の様子に――
やきもちを焼く。
(あの人、な、泣いてる! Jさん、手、触ったーッ!)
しかし、ほどなくして自虐に入る。
(…そうだよね。Jさんほどの人に、そんな人がいないわけないよね。
だいいち、ボク人間じゃなかったんだし)
風波飛翔。
当時はそう名乗っていた。
(「飛翔」には、そんなつもりはまったくなかったけど…結果的にボクはJさんを
騙していたわけだし…)
――不正義さまのご加護がありますよーに!
飛翔は彼女に会った世界で、常にそう言っていた。
だが、飛翔自体が不正義(アンジャスティス)そのものだったのだ。
(人間になりたくてなりたくてなりたくて、人間に転生してみて、
恨まれて殺されて…
いやあれは自害だったっけ、まあどっちでもいいんだけどね…
それで人間になるという望みは絶たれたと思っていたけれど、
あの世界に飛ばされて、Jさんに会って、みんなに会って…)
とても大事な、思い出。
事実上無敵な自分の、唯一の弱点になっているけれど、それも構わないくらいの、
大切な思い出。
ヒトからすれば、途方も無い時間が経っている今も、当時その場にいた人たちの声が
聞こえてくるかのようだ。

(……行こう)
その姿を見れただけでいい。
不安とかさっきまであったけれど、いざその姿を見たら、
そんなものは吹っ飛んでいた。
最後に、と思ってもう一度覗き込む。
すると――彼女の連れている犬に気付いてしまった。
(い、犬ぅぅぅぅ!)

…シャルの名誉のための補足だが。
シャルは犬が怖いわけではない、むしろ好きだ。というか同類だ。
だが、同類だからこそわかることもある。それは、犬は主人に忠実だということ。
つまり、
犬に気付かれていたらJさんに覗いてあのシーンを見ていたとバレてしまう
不振人物だと思われるそれだけはイヤだどうしよううわあああああ!
状態に陥ったのである。

---------------
シャルが混乱し、他邪心たちがユグドラシルと対峙しているなか、
ネコたちは相変わらずであった。
オレンジ毛のネコはのんびり伸びをし、チモンに語りかける。
灰縞毛のネコは喉を鳴らしているだけだ。

---------------
生まれ変わった王女は人間と戦うのが普通だった。
自分の一族を守るためにね。
…どんな一族か知りたい?
そうね。
それなら、あなたがこれから向かおうとしている人のところで話そうかしら。
ぴったりなんだもの。

そうよ。雪女。
雪女を守る存在に王女はなっていた。
だからこれからは、雪女の子、と呼ぶわね。

雪女の子は、特に人間が憎かったわけじゃない。
単に自分の使命だったから守っていただけ。
つまり、自分の一族も、人間も、そりゃあもう、
動植物でさえ同じ扱いだったようよ。
それでも、使命のために、人間を殺め続けていた。

その代償は、もちろんあったの。
正義の味方が彼女を殺しに来た。
あ、笑ったでしょ?
本当にいたのよ、正義の味方。

(そこまで言って、オレンジ毛のネコは灰縞毛のネコの様子を伺った。
 灰縞毛のネコは眠っている。
 それを見て、オレンジ毛のネコが安心したのを、チモンは感じ取った)

正義の味方ってね、表世界の王家が生まれ変わった連中だったの。
そんなこと、雪女の子は知らない。
自分の前世も知らない。

そんな状態で、正義の味方と、雪女の子は戦った。
途中で兄が、雪女の一族を守るために、人を殺めるのは間違いと言い出して、
正義の味方側に回っても、戦った。

そのあと?
――どうだったかしら。

-----------------
オレンジ毛のネコはそう言うと、灰縞毛のネコの横に並んで、寝息を立て始めた。
「早ッ!」
チモンは思ったが、どうすることもできず、その様子を見守ることにした。
「にゃあ」
「にゃーん」
2匹のネコは尻尾を立てて挨拶してから、じっと見つめあった。
そして、しばらくの間(ま)。

「あ、あの…」
沈黙に耐えられなくなって、チモンが声をかけた。
「にゃーん」
すると、オレンジの毛のネコがチモンに近寄ってきた。
そしてチモンにもわかる言葉で、
『昔話、私からもするわね』
そう、言った。

-----------------
表と裏の世界を照らす星に、一人の守護者が住んでいたの。
その星を表すような、真っ赤な髪を持った少女の姿をしていたわ。

彼女は照らす星を守るのが仕事だったから、照らされている世界には無関心だった。
だから、世界に妖魔が溢れ、多くの命が消えていったときも、なにもしなかったわ。

裏の世界は順調に復興を果たしていったわ。
表の世界は完全に荒野と化していたけれど。
裏の世界の人間たちは、
自分たちの地の他に世界があるなんてことも忘れているくらいだった。
だから、今後、世界イコール元・裏の世界ってことで話をするわね。

どんな文化レベルだって、
賢いヒトが生まれ、その人がどんどん発展の手助けをする。
それに伴って、妬みとか恨みとか――そういう負の感情は発生するもの。
だから、裏の世界の王女は、負の感情回収から解き放たれることはなかった。
大地の底で、大きな砂時計のようなものを作り、
そこの上部に負の感情を溜め、下に落とす。
落とすときに結晶化させて、漏れ出すことのないようにしていたらしいわ。

だけど、自然発生するものを消すとか抑えるとか、不自然なことだと思わない?
やがて王女の体を負の感情は蝕み始めたの。
でも王女は、これは自分が弱いからだ、しっかりしなきゃ! 
と気力で持たせようとしていた。
その姿があまりにも痛々しかったのね。
照らす星の守護者は、彼女を説得するために、彼女が潜む洞窟へ現れたわ。
そして私がさっき言ったようなことを、王女に言うの。
だけど彼女は、負の感情集めをやめようとはしなかった。
世界が滅ぶところを、もう見たくないってね。

仕方がないので、照らす星の守護者は、彼女のそばにいることにしたの。
少しでも彼女の様子がおかしかったら、自分の手で彼女を殺そうとしてね。
物騒な話?
そうかしら。
王女が妖魔になったら、本末転倒じゃない。
それを彼女が望んでいるとも思えないし。

だけどね。そばにいるっていう判断は間違いだったのよ。
身近なひとの変化って気付きづらいのはわかる?
そっか。そんな経験ないか。
とにかく、近くにいるとね、少しづつの変化には気がつかないものなのよ。

照らす星の守護者は気がつくのが遅れたの。
王女は妖魔になっても、まだ負の感情を結晶化させて、
表面上は世界を負の感情から守っていたから。
本当は守ってなんかいなかった。
だけど害を与えようともしていなかった。
千、万の時を越えて、そこに存在していたのは、
ただ負の感情を集める装置だったのよ。
それに気がついて、照らす星の守護者は
王女を眠らせることを――って言うと綺麗事よね、殺すことを選んだ。
しかしそれは間違いだったのかもしれない。
結果、世界の人々は、自力で負の感情と戦うことになったのだから。
だけどその結果を見ても、守護者は自分の判断が間違っていたとは思わなかった。
彼女にとっては、世界なんてどうでもよかったから。
単に王女のことがいたたまれなくて、世界に下りてきただけだから。
そうして、守護者は照らす星に帰っていったわ。

それから何千年、時が流れたかしら。
世界の人々は適応して、負の感情と戦う力を手にしていたわ。
もちろん、負の感情は実体化して、妖魔をはじめとする脅威と化していたけどね。

そんななか、王女の生まれ変わりが世界に生まれたわ。
なんの因果か、ちゃんと裏の世界の王子も生まれていて、その王子の妹としてね。
普通の子供として生まれていればまだ幸せだったのかもしれない。
だけどなんの皮肉か、二人はある一族の守護者として生まれたの。
――なにかしらね、守護するものはその運命から逃れられないって奴ぅ?
そして守護するためには、過酷な試練があったの。
それは、自分たちの種族を守るために、外敵から身を守ること。
そしてその外敵とは――人間だったのよ。

-----------------
「これは…!?」
突然の景色の変化に、エリアスは驚きを隠さない。
「ユグドラシル! この島にもあったんですね!」
目の色を変えて、カルニアが嬉しそうに言う。
――彼は、自分の世界のユグドラシルを食べているのだ。
「でもボクたちを消そうとしているみたいだよ。
招待主さんが、止めてくれたから今は助かっているだけでさ」
淡々と言うシャルは心ここに在らず、といったところだ。
「そんなことはどうでもいい。ボクは…」
空を見上げて、ぽつりと呟いた。
「変わっていたとしても、あのひとに会いたい」
あのひと?
問いかけられても、シャルは答えず、遠い目をしているだけであった。


····· ボクだって

「~♪ ~~♪」
フェイテルがなにかを歌っている。

「む。力が湧いてくる…それになんだ、この気分は…?」
エリアスは不思議そうに手を胸の前でひらひらとさせた。

「あは、あはは、あっはっはっはっは!」
シャルではない。
シャル笑いをカルニアがしていた。
カルニアは笑いながら、楽しそうにくるくると回っている。

「………?」
そんな二人を見て、シャルは不思議でたまらなかった。
しかし、ふと気がつく。
自分には状態異常というものが全く効かないということに。
そしてカルニアは精神の状態異常にとても弱いということに。

「ふぇ、フェイテルサマ!」
慌てて声をかける。
しかしフェイテルは歌い続けたまま、にこにこしているだけだ。
「フェイテルさま~!」
持ち上げて、ぶんぶん振り回すが彼女に止める気はさらさら無いらしい。
とても気持ちよさそうに歌っている。
困ったシャルは横のデスティニーを持ち上げた。
「ねぇ、フェイテルサマは何を歌っているの?」
するとデスティニーは小首をかしげてこう言った。
「歌のことは詳しくは知らん。が、ファニーソング、というらしいぞ」
さっと青ざめるシャル。
そしてどこからか金だらいを持ち出すと、
思いっきりフェイテルに向かって振り下ろした。
「忘れろ!」

ぷち。

----------------
その頃、合同宿舎がある世界で。

フォーゼがにこにこと笑っていた。
その前で、赤髪の少年はひきつった笑みを浮かべている。
「り、リレー小説、ですか?」
少年はおそるおそる主に問いかけた。
「そうだよ。リードも誘ったから心配はいらない」
信じられない言葉に、少年、チモンの目は大きく見開かれる。
「あのリード様が? こんなお遊び企画に参加ですか?!」
「お遊びとは失礼な。ただの創作じゃないのだよ」
フォーゼは立ち上がって、自室に入ると、
抱えるくらいの大きさの宝箱を持ってきた。
そしてそこから1匹の獣をそこから取り出す。
「え゛。」
あまりに意味がわからない展開に、チモンは妙な声を出す。
「はじめて見る獣だろう? 彼女は、もともとこの世界に住んでいた獣らしい。
現在はフェイテル様の手によって、異世界の者だらけになってしまったが、
この世界になにも無かったわけではないようだよ」
そう説明された獣…見た限りでは普通の、
灰縞ネコは、ゴロゴロゴロ…と喉を鳴らした。
「彼女に、この世界でなにがあったのかを聞こうと思うのさ。
それを一人でやるわけにはいかなくてね。
なにせ私はこの国の王。研究にばかり没頭しているわけにもいかないだろう?」
「そうですね…」
チモンは頷いて、ネコに手を差し出す。
するとネコはチモンの顔を一度見上げたが、すぐに正面を向き、
ゴロゴロゴロ…と喉を再び鳴らし始めた。
会話が成立しない。
「あの…僕、この子の言葉翻訳、自信が無いのですが…」
そう思って、チモンは弱音を吐いたが、フォーゼはハハハ、と笑った。
「大丈夫。私の扱いもこんなものだから」
フォーゼはチモンの肩にネコを乗せると、一冊のノートを差し出した。
「これは昨晩までに私が彼女から聞きだした分だよ。次はチモンが
翻訳に挑戦してもいいし、先にリードに任せてもいい」
ネコは肩に乗せられたまま動かずに、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
「予習で読んでおきたまえ。かなり長い話になりそうだ」
言われて、チモンは反射でこくりと頷いた。

------------------
むかしむかしのお話です。
わたしの住む世界は裏と呼ばれる世界でした。
ですから、表と呼ばれる世界もありました。
でも、二つの世界は干渉せず、それぞれ人々は豊かに生きていました。
物質的にも、精神的にも。

しかし人間というものには、欲望というものが不可欠です。
欲望が無ければ進歩しません。
ですから、欲望は悪いものとは限りません。
けれど悲しいことに、他人に害を与える欲望のほうが多いのです。

表の世界の王族は、その害と戦っていたそうです。
それでは、裏の世界の王族はなにをしていたか。
表層に出てこないために悪化した欲望を集めて、浄化をしていたといいます。
しかし本当は、浄化なんてできていませんでした。
集められた欲望はやがて意思を持ち、裏の世界の王族に襲い掛かりました。
王族は必死に抵抗しましたが、抑えきれず、意思を持った欲望は
妖魔を生み出しました。
そして、妖魔は表裏の世界を問わず、広がっていったのです。

表の世界の王族は、困り果てた裏の世界の王族に協力を惜しみませんでした。
共に妖魔と戦いはじめたのです。
その結果、表の世界の王女と裏の世界の王子が恋に落ちたのは、
当然のことだったのかもしれません。
蛇足ですが、彼らのように恋仲になった表の世界の人間と裏の世界の人間は
多かったとも聞きます。

それを面白く思わなかった人間も出てきました。
欲望の集合体はそれを見逃さず、その心理につけ込んで配下にしていきました。

戦いは熾烈を極めていきました。
結局は、表の世界の王族の力により、意思を持った欲望は封印されましたが、
犠牲者も多く出ました。
多く、というにはあまりにも多く――
二つの世界は、滅びたのです。

それではなぜ世界の歴史はそこで終わらなかったのか。

表の世界は、王族に依存して存在していたため、
王族の全滅により完全に停止してしまいました。
と言っても、裏の世界もさほど違いはありませんでした。
しかし、裏の世界の人間はかろうじて生き延びていました。
そこで裏の世界の王族の生き残りである王女は、
裏の世界の人々が発する邪な意思を受け止めることにしたのです。
その結果、再び妖魔を生み出すような存在が生まれてしまったとしても、
戦ってくれる人が出てくることを信じて――

そうして、何万年もの時が流れました。

------------------
フォーゼの丁寧な字で書かれた物語は、ここで途切れている。
チモンは目を通すと、ネコに目をやった。
「キミが、これをビスマス様に語ったのかい?」
するとネコはチモンに顔を向け、しかし興味が無さそうに、にゃあ、とだけ鳴いた。
「………」
チモンは考える。
こんな調子で、続きをこのネコから聞きだすことができるのかを。
その様子をフォーゼは面白そうに見ている。

「……りっ」
沈黙ののち、チモンから言葉が漏れたのは、約5分後のことであった。
「リード様に任せます!」
情けないと、顔をゆがませるチモンの空いているほうの肩を、
フォーゼはポンポンと叩いた。
「気にしてはいけないよ。
では悪いけれど、リードのところにその冊子とネコを持っていってくれないか」
「もちろんです!」
このネコから話を聞くことに比べればお安い御用。
チモンは思いっきり頷いて、体を90度前に倒した。
すると、ネコが下にずるずるーっとずり落ちる。
「あ」
機嫌を損ねたのではないか。
冷や汗をかきながら、チモンがネコの様子を伺うと、
ネコはチモンの肩にくっついたまま、変わらず喉を鳴らしていた。

(この子のこと、全然わからない…)
リードのいるであろう城下町に向かいながら、
チモンは自分の肩にいるネコを見つめていた。
(あ、この子、じゃない、のかも…)
昔話を語るなら、老猫かもしれない。
そう思ってネコを見るが、灰縞ネコはかぎしっぽをゆらゆら動かして、
チモンを無視しているかのようだった。
(でも童顔なんだよね…)
瞳が大きいのだ。それが幼いという印象を与える。
しかし聞いたところで答えないのだろうという諦めが、チモンを支配していた。
そこに聞こえた声。

「にゃ~ん?」

ぴくっ。
今まで大きな動きを見せなかったネコの耳がぴこっと動いた。
そしてチモンの肩から飛び降りると、一目散にある方向に走っていく。
慌てて追いかけた彼が見たのは、鮮やかなオレンジ色の毛並みの、ネコ、であった。


····· ラスボスが出た裏で

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