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定期更新型ネットゲーム「Ikki Fantasy」「Sicx Lives」「Flase Island」と「Seven Devils」、「The Golden Lore」の記録です。

カテゴリー「定期日誌」の記事一覧
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=文章が好き! コミュイベント参加作品=

「ちょっこれーと、ちょっこれーと♪」
「またチョコレート話ですか…ちょっと時期外れですよ」
シャルとカルニア。二人は遺跡外に座り込み、それぞれ
<作成受付中!>
<集まれ! チキレーサー!>
という看板を出している。
「なんで、チョコの話をすると怒るのさ? 
ああわかった、カルにはチョコレートが足りないんだ!」
カルニアはため息をついた。
「あ。信用していないな! チョコレートはね、心が癒されるんだよ! 
ホントにそういう効果があるって実証されてるんだってば。
カルだったら、データの中にそういう情報持ってるでしょ?」
「さあどうでしょうね。世の中には堂々とまかり通っていても、
ウソのことだっていくらでもありますからね。例えば、マイナスイオンとか」
消されるぞカルニア。
そんな危険を含んだ発言をしながら、カルニアは足元の小石を蹴った。
「そういえば、今日はこの島でもチョコレートのやりとりがあるみたいですね。
シャル、私の看板も一緒に管理していただけますか? 
チョコレート、売ってきます」
「あ、ズルイ! ボクもチョコ配るんだい!」
はあ…。
カルニアはシャルと一緒にいることによってついた、
数え切れないくらいのため息を再びついた。
「じゃあ、ひとまず看板は片付けて、二人でチョコレート、準備してきましょうか」
「ウンウン、それがいい! 合同宿舎にチョコレート準備は終わってるんだー」
「私も終わっていますよ。合同宿舎に……あ」
カルニアはぽつりと呟いた。そしてその顔がどんどん青ざめていく。
「どうしたの?」
シャルは空気を読めないのか、そのままの調子で彼に尋ねる。
「い、いえ、なんでもないです。私は、がおを信じます」
「あー!」
その言葉を聞いてシャルも叫ぶ。彼も思い当たったのだ。
エレア(種族名)でありながら、大量にエネルギーを欲しがるカルニアのペット、
がお。奴の大好物がチョコレートであることに。
いや、カロリーがあればなんでもいいのだが、
特にチョコレートが大好きなのである。
カルニアは全身をぷるぷるさせながら、引きつった笑みでシャルに語りかける。
「大丈夫ですよ。私が躾けているがおですよ? ちゃんと主人の大切なものは
食べないようになっています!」
シャルはふるふると首を振った。
「そうかなぁ? アイツは3歩歩くうちに忘れる生き物だよ?」
「大丈夫ですって!」
カルニアは胸を張った。その様子を見てシャルの目つきがきらりと光り、変わる。
「ほーう。なら賭けようか。ボクは、がおがチョコを完食しているに一票」
「う」
すると、カルニアは詰まった。お金も大好きな彼にとって、
不利な賭けには応じたくない、というわけだ。
それはつまり――
「ほら見たことか。カルもがおのこと信用してないんじゃん?」
「ち、ち、違いますよう! ………わ、わかりました。賭けましょう。
私はチョコレートが無事に一票」
カルニアは思ったのだ。どうせ賭けに負けても、踏み倒せばいいのだと。
誠意なんて彼にはないのである。

さて結果は…

合同宿舎の倉庫はからっぽになっていた。
「めっ!」
シャルはがおをどついた。
「がーおーん!」
がおは鳴いた。
「反省しているの?」
「げー」
げー、とは、がおが否定をするときに使う鳴き声である。
シャルはさっそくぽこすか殴り始めた。
エレアは「げーげー」と鳴きまくっている。いや、泣きまくっているのか?
「や、やめてください! がおが可哀想じゃないですか」
カルニアは止めに入る。するとがおは「がおがお!」と頷いた。
妙に自信ありげに。
シャルはカチンと来た。
「ボクが一生懸命作ったものを奪っておいてなに偉そうなの!? 信じられない!」
「げー」
そう鳴いて、がおはシャルを睨み返した。なんとまあ、盗人猛々しいことで。
「ひーらーきーなおったなー!」
シャルは怒った。鳴くがお。止めるカルニア。合同宿舎は大混乱である。
「やかましい!」
声が響いた刹那、シャルの周りには炎の渦が巻き起こり、がおとカルニアには
氷の槍が突き刺さった。
「あ。オルドビスー」
シャルが炎の渦をさっさと消すと、彼の元にトトトっと駆け寄る。
すると声の主であり、この家の主でもあるオルドビスは露骨に嫌な顔をし、
シャルから離れた。
「あ、また逃げるー。どうしてボクをそんなに嫌うのかな」
「今のお前は、性質(タチ)が悪い」
そんな会話をしている間に、ようやくカルニアが動き出し、槍を引き抜き、
がおのもとに駆け寄ってがおの槍も抜いてあげている。
「そんなことないよ? ボクはただ、キミを愛でたい。それだけさ」
「それが嫌なんだ! きもちわるい」
彼は水色の髪を振って、また縮んでいた二人の距離をあけると、炎を放った。
シャルはふふんと笑いそれを片手で打ち消す。
どうしてオルドビスがここまでシャルを拒絶するかというと、理由は簡単。
オルドビスもシャルも男だからである。
しかし、シャルはオルドビスを可愛がり、それが気持ち悪いと言われると、
「じゃあ女の子にしてあげる♪」と言い出す。
そんな迷惑男に近寄ってもらいたくないのも当然というわけだ。
そんなわけで嫌われるのも当然なのだが、シャルはそれでも可愛がる。
だから性質が悪い、なのだ。
先日カルニアが言った『バカモード』のときのシャルは、炎で簡単に退治することが
できるのだが、『本気モード』のときはどうしようもない。
だからこそ、この家を邪心が乗っ取っているのだが。
「ああ、オルドビスはボクの清涼剤だよ。キミを撫でていると、心が癒される…」
イライライラ。
オルドビスは明らかに不服な顔をしているが、反撃できない。
しかし無抵抗なのはやはり嫌だったのか、
「清涼剤? ならばこうしてやる!」
氷の槍をシャルの頭に突き刺した。
「やーん!」
すると、突如バカモードに戻ったシャルはそう叫んで、後ろに倒れこんだ。
「あは、あはは。それでは私はまたチョコレート作りに戻りますねー」
「がおがお!」
カルニアは氷が心の底から苦手なので、さっさと退却し始めた。
バカモードのシャルは相手にならないしつまらないしくだらない。
そう判断したオルドビスもさっさと彼の元を去る。
ぽつん、とシャルだけが取り残されたのであった。

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····· 初心忘れた

「カルはー、外! 福はー、内!」
シャルが豆まきをしている。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! どうして私が外なんですか! 
外は寒いからキライです。それに、ここを実質動かしているのは私なんですよ!」
カルニアが即座にクレームを出す。
シャルは“にこぱ”と笑い、
「カルはバケモノだからー!」
と言った。
「………また、昨日と同じ目に遭いたいんですか、あなたは」
「やーん、カルってば短気ー。短気は損気って知らないの?」
触手を1本だけ出して、不機嫌そうにカルニアは言う。
それに対して、昨日は悲鳴を上げていたシャルが、今度は強気である。
早い話が、慣れた。というやつのようだ。
「短気とはまた。エリアスのほうがよっぽど短気で危険ですよ。私と違って、
手加減とかそういうの考えないでキレますからね。
いくらシャルでも、その恐ろしさはわかりますよね?」
こくこく、とシャルは頷く。
「だから、エリーは外~とは言ってないじゃん?」
「そういう問題ではありません!」
もうついていけない。そう感じたカルニアは頭を押さえて首を振った。
「そっか。そういえばそろそろバレンタインさんの日だよね。
豆まきはこれくらいにして、チョコレート作らなきゃ!」
シャルはそう言うと、あっという間にどこかへ豆を片付けた。
豆を食べる習慣は彼らには無い。自分が何歳か知らない者ばかりだからだ。
「どこかの合同宿舎の主は永遠の22歳だけどね!」
「誰に話しかけているんです?」
本当に誰にだろう。

バレンタインとは、シャルがチョコレートを作り、それを配りまくる日である。
そして、酒が飲めない彼が、ラムレーズンチョコや、ウイスキーボンボンを食べて
ひっくり返っている日でもある。
なぜそんなことをするのか。
それを聞いても、シャルは、「儀式の一種さ☆」と言うだけで、なにもわからない。ただ、そのときの彼は、口調とは裏腹に無性に寂しそうな顔をするのだ。
「バレンタイン~♪ 楽しみだな~♪」
それなのにシャルはこう歌う。なんとも理解しがたい生物ではないか。

「まあ私も楽しみですけど」
カルニアにとってのバレンタインも似たようなもので、
チョコレートを作って売りさばく日である。金銭も大好きな彼は一儲けできるので
嫌いではない日、というわけだ。
「フェイテルサマはどうするんだろーね」
突如、シャルが言い出した。カルニアは不快感を持った。
「いいじゃないですかそんなこと。あの人のことなんて」
シャルはカルニアの機嫌が悪いことに気がつく。
「あれ? どうして怒ってるの? 
フェイテルサマにはチョコを売りつけられないから?」
「そういうわけではありませんけど…」
実のところ、カルニア自身にも心当たりは無かった。今現在遺跡外で彼女がどこかへ
消え、カルニアはせっせと仕事をしている。それが不満の原因だろうか?
「うーん…」
カルニアはうなる。シャルはくるりとターンをした。
「ほらほら! 踊ってあげるから元気出して!」
「…意味わかりません」
言うがいなや、触手が1本シャルの立っている片足を捕まえて引っ張った。
「やん!」
シャルはそのまま素直に転倒。その姿を見て、カルニアは呆れた。
「いい加減、そのテキトーモードやめていただけませんか? 
本当はこれくらいじゃ倒れないくせに」
「いいじゃないか。カルニアのお子様モードと一緒だよ。ボクの本気モードはね」
シャルの今のような営業モードが地なのか、先程のようなバカモードが地なのか
カルニアにはわからない。
「両方ともボクさ」
「…誰かさんのセリフをパクらないでください」
昔、言われた台詞をシャルは引用した。自分が難しい顔でもしていたのだろうか、
こんなことを言うということは、とカルニアは思った。
さて、カルニアが指摘をすると、シャルは再び“にこぱ”と笑い、
「バレンタイン~ バレンタイン~ 楽しみだな~♪」
歌を歌いだした。
ごまかさないでください、とカルニアは言おうとした。しかし。

「本命がいなくても楽しみなのかしら?」
声が聞こえた。一瞬、シャルの目が鋭くなる。が、すぐに普通の目に戻ると
「あ、フェイテルサマ~。どこ行っていたの~?」
と、声の主に手を振った。カルニアも彼女の方向を向き、
おかえりなさいませ、と言う。
「ちょっと人探しをね。ここで待っていてもなかなか会えないものね」
「それは、みなさん冒険されていますからね。
私は今回のお仕事の準備はできました。相変わらず防具は厳しいですねぇ」
カルニアは前日に引き続き、防具の依頼が無く、残念そうである。
「ねーねー、そろそろ冒険しない? そろそろボク、呪いをそこらへんの人に
かけたくなってきちゃった」
シャルが迷惑なことを言い出す。まったくもう、とカルニアはいいつつも、
同意をした。
「私も…おなかがすきましたねぇ。モンスター、早く食べにいかないと
強い相手しか出てこなくて食べられなくなってしまいますよ」
「そうね」
フェイテルはそう言って水晶玉を覗きこむ。
「大丈夫よ。まだ大丈夫」
「そんなこと言って。ソロ協会の方々も、みんな先に進んでしまったら
どうされるんですか。完全に冒険は行き詰ってしまいますよ」
「あと少し待って頂戴。待ち人がいるのよ。それが終わったら、行きましょう」
カルニアはフェイテルの変わらぬ表情を見て、
「そんなものですか…」
とだけ、つぶやいた。
すると、くるり、とフェイテルはカルニアのほうを振り向き、
「それにしてもよくがんばってくれているわね、いい子」
と、彼の頭の上にぽふっと手を置いた。
「ああっ、やめてください、恥ずかしいです!」
人目が無いところにいるとはいえ、シャルがいる。
カルニアは否定の言葉を放つと、シャルの様子を伺った。

ニヤニヤニヤ。

(ああ、やっぱり…)
カルニアは頭をかかえた。フェイテルは始終、邪心たちにいい子いい子と
言いまくっているが、カルニアに対してだけは、頭なでなでがついてくる。
(これで、フェイテル様のデータ採取っ☆ ができればいいのですけど、
それもできないんですよね)
カルニアは触れた相手からデータを奪うことができる。
別に触手をいちいち出さなくても構わない。
しかし はたと なにかが カルニアに囁いた。
(やってみなきゃわからないよ?)
「……」
考える。そしてカルニアは実行に移した。

(データ採取完了。データ採取完了)
カルニアの頭の中に機械音声が再生される。
(ウソッ、本当にできてしまいました…じゃ、じゃあ内容は…)
確認してみる。そしてぐったりした。
フェイテルの冒険者カード(=ステータス欄)の内容だった。
(そ、そりゃそうですよね。そう簡単に司のデータが取れるわけありませんよね…
あ)
カルニアは気がついた。
フェイテルのなでなで攻撃が止まっていることに。
振り返り、フェイテルの様子を伺う。
「―――カルニア」
「ひいっ」
後先考えずに事を成してしまった、カルニアの失態である。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ~!」
今日は、カルニアの悲鳴が響き渡った。

····· 迷走中

「うーん…」
カルニアはうなっていた。
「ん、どうしたん、カル?」
シャルがそう言って、彼の視線の先を追って、ああ、と呟いた。

ここは遺跡外。
たくさんの人が出入りする市場、広場、案内所。なんでもある。
カルニアが立ってうなっていたのは、市場の職人が集まる―木漏れ日―の
募集看板の前だった。
職人たちが自分の腕を売り出したり、品物の取引を行うことができる、
有志で作られた大変ありがたい場だ。
「昨日はあっという間だったんですけどねぇ。この調子なら、
遺跡外にちょっといれば目標に辿り付けると思ったんですけど…」
今日は、カルニアの呼びかけに応えてくれた者の名は無い。
「昨日は見送った衣装だけ申し込みがあるねー」
「ええ、これはとてもありがたいことです」
衣装はこれ以上ポイントを使って上げられないのだ。
本当は防具に振る余裕も残っていない。そのため、遺跡外だけが頼りなのだ。
「職人業ってやっぱ大変だねぇ~」
ひとごとなので、シャルは暢気に呟いた。
「あ。あのねぇ。しょくにんぎょう、って書いたら食人形って最初に出てきたよ!」
「突然意味のわからないこと言わないでくださいー」
ジトっとカルニアはシャルのほうを見る。
「むかーしむかし、人形の形をしたパンを作ったら、そのパンは意思を持って、
逃げ出した。いろんな奴に狙われたけど逃げ続けた。でも最後に、味方のフリした
キツネに食べられちゃった☆…というお話があるのだよ」
「全く説明になってないんですけど」
「あーはっはっはっはっは!」
久しぶりの呪いつき高笑い。カルニアは耳をふさごうとして、一拍置いてから
シャルの口をふさいだ。
「もがっ!」
「みなさんの迷惑です。やめてください」
「ほんはほほはいほー。はへほほふははっはっへわはははいっへは
(そんなことないよー。誰もボクがやったってわからないってば)」
はふはふ言いながらシャルは反論する。そういう問題ではないんです、とカルニアは
シャルを離してから睨みつける。それにしたっていつもいつも貴方は
突然わけのわからないことをおっしゃいますよねぇ、と付け足している間に、
シャルに動きがあった。
「ふーん」
急に意地悪な光を湛えた目でカルニアを見たのだ。
「なんですか」
「人間嫌いのカルニアが、人をかばうなんてねぇ」
「え?」
すると何かスイッチが入ったように、カルニアはキャピっとポーズを取り、
「わたしー、人間さん、大好き♪ ですよ?」
「それは研究対象としてでしょ。あるいは食用」
子供っぽい声で言ったが、シャルにあっさりばっさりやられた。
「そんな風に見えます? よく交流している人がいるじゃないですか。
その人たちを私が、邪険に扱ってます? 違いますよね」
「そういう押し付けるような口調って、キラーイ」
カルニアはちょっと怒って普段使わない文法を使ったが、
シャルのお気に召さなかったようだ。
「質問に答えてくださいよー」
「キラーイ」
語尾を和らげてみたが、会話が成立しない。
気まぐれ蜥蜴はつくづく扱いづらいと、カルニアは額に手を当ててぐったりした。
それを見かねてか、シャルは返答をする。
「確かに邪険には扱ってないけど。でも、カルって嘘つきじゃん。信用ならないよ。
本心はどう思っているかなんて」
「そんなことないですよぅ。本心から、楽しくお付き合いさせていただいています」
その言葉も信用できないんだよ、とシャルは補足しながら続ける。
「そうかなぁ? いまや、カルが交流している人って、ボクよりも、
フェイテルサマよりも少ないじゃん」
するとカルニアが固まった。
「え゛。フェイテル様、交流しているんですか?」
「してるよ~。主に、あっちから話しかけてくる人にね。話しかけるほうとしては、
使い魔のボク達より、フェイテルサマに話しかけたほうがやりやすいみたい」
所詮、ボクらは使い魔なのさ~♪ と言いながらシャルはくるりと
ターンしてみせた。
カルニアはそれを見ながら、信じられない…と考え込んでいる。
「あ、そういえばフェイテル様は?」
シャルはもう1回転してから答えた。
「興味を持った子を水晶で見てるよ。よっぽど気に入ったみたい、
あのアイドルのこと」
「アイドル、ですか…?」
そういえば、フェイテルのお気に入りリストにはアイドルの名が二つ
書き連なっていた。
「ミーハーなんじゃないの? ふふふっもがっ」
呪いの高笑いの前兆が来たので、カルニアは即座にシャルの口をふさいだ。
「はんへははっはひへはいほ? ほふほはほひひはほひー!
(なんで笑っちゃいけないの? ボクの楽しみなのにー!)」
「みなさんが呪われるからですよ。ほら、こんなことだから人が逃げていく!」
カルニアはそう言いながら、募集が集まらないことの苛立ちを
シャルにぶつけることに決めた。

ぷすっ

シャルの足を木の根っこのようなものが貫いた。
「痛いーっ! カルゥゥゥゥゥ!」
シャルはそう言っても、カルの一種の悪ふざけなのだろうと、思っていた。
だから痛いながらもなんとか笑顔を…涙目だが作って彼に話しかけた。
しかし違った。
「なんですか? これ以上私たちを呪おうとされるなら…
こちらは先制攻撃させていただきますよ」
目が怪しく輝くカルニアの周りには木の根っこらしきものがうようよと
うねっていた。
本性が完全に怪物のカルニアには、触手があるのである。
先程からシャルを刺しているそれは、カルニアのある意味、手、だ。
シャルは、思いっきり、引いた。
カルニアが化け物だと知ってはいたが、それを見たことは無いので
その一部を見せられて、未知のものへの恐怖というものもあったのであろう。
シャルの知っている世界は、広いようでかなり狭い。
カルニアのような修羅場はくぐってきたことが無いのだ。
孤独の中で生まれ、孤独から逃げようと足掻き続ける邪心。
憎しみの果てに、大量の犠牲を生み出すことによって自らを慰めた邪心。
彼らの境遇は、あまりにも、違いすぎた。
「ご、ご、ごめんよ~。カルが本気で怒るなんて、思ってなかったから…」
シャルはとりあえず謝った。
しかしカルニアの目は冷めた笑いの色のままだ。
「これが私の本気の怒りだと思います? ちょっと機嫌が悪いだけなんですよ。
とりあえず場所を変えましょう。これ以上やるには、ここはあまりにも場所が
悪すぎる。お客さん、これ以上減ると困ります」
充分、これの事情を見て理解したならば、客足は無くなるだろう。
今現在、木の根っこがうねうねしているだけなので、セーフとカルニアは
考えているようだが、この遺跡には、力を持つものなど五万と居る。
果たしてセーフなのだろうか?

「さ。どこいきましょっか?」
「やーめーてー」
シャルの悲鳴だけが残っていく。

「………くだらんな」
その後姿を、フェイテルとよく似た少年が見ていたのを、二人は知らない。


····· チキレコミュ作りました。

薄暗い裏路地。
細かい雨が降り続いている。
遠くで、雷の鳴る音が聞こえた。
そこに立つ長身の男。
手には花束。
彼の長い黒髪は雨ですっかり彼に張り付いている。
「―――また会いに来ちゃった」
口だけが動いた。

------------
今日は遺跡外。
カルニアは一人、バタバタあたふたしている。
それを見守るフェイテル。
その横ですごく暇そうにしているシャル。
2人は並んでいるのに会話を交わそうともしていない。
「さあ! とりあえず依頼を引き受ける旨の広告は出してきました! 
あとは依頼待ちですよ~」
カルニアが、にこにこと笑顔を浮かべて2人のもとにやってきた。
「さて、次はどこへ行くの?」
フェイテルが自分の考えをそのまま言う。
カルニアはそれにビクっと反応して、ひきつった笑顔でこう言った。
「今回はお休みです~。依頼を受けて、経験を積むんです。
正直付加36は遠すぎるので経験をいただいていかないとやってられないですよぅ」
「経験?」
フェイテルはカルニアが怯えた理由には触れず、問い返した。
「はい。一生懸命作成をすると、たまにレベルアップできるんですよ~。
こないだありませんでした? 私が防具を作成したときに経験でレベルアーップ! 
ということが」
「そういえばそうね」
本当に記憶にあるのかどうか怪しい。
しかしカルニアはぺらぺらと喋り続ける。
「この先は、適当に出会う相手ではなく、待ち構えている人がいるという噂です。
今度は、その人たちのことを調べてきます。それでは~」
言うがいなや、カルニアは手を振って2人のもとを去っていった。
ぽつんと残されるフェイテルとシャル。
「……」
「………」
「あ、あのね。今回は勝ててよかったね。
カルニアが新しい契約相手と交渉してきたって聞いたよ!」
無理に盛り上げようとしているのか、テンション高めの声でシャルが話し始める。
「冒険者には敵わないけれどね」
「それはしょうがないよ! カルニアがいろいろ作るためだもん」
それにフェイテルは答えない。
(また話題が尽きてしまったか…)
内心シャルは思う。が、フェイテルがぽつりと言った。
「楽器って、あなた、できる?」
自分のことを聞かれることはとても珍しい。シャルは若干驚いた。
フェイテルは自分たちのことなど、なんでもお見通しだと思っていたからだ。
「それなりにはできるよ! 得意なのはピアノだなー」
「それ、教えてくれない?」
「え゜っ?!」
自分になにかを頼るということも驚きだし、なにかをしようとすることは
さらに驚きだった。
「ど、どういう風の吹き回し…? 明日はなにが降るの? 杵? 臼?」
降る物のチョイスがなんだかおかしい。
「綺麗な演奏をしている子に出会ったの。とても綺麗だったからその場で
しばらく聞いていたわ。私にはできないこと。だから聴いているのよと言ったらね、
その子は言ったわ。やれる体があるのだから、
あと大切なのはやろうと思う心だって」
「そうなのかー」
シャルは相槌を打つ。フェイテルが音楽に興味を持ったということも
不思議なことだった。
フェイテルには感覚があまり無いのだ。ちなみに痛覚は全く無い。
だからおいしい草もそのままおいしく頂くし、
落ちていた薬を飲んでも全然平気な顔をしている。
以前、こっそりシャルが薬を頂戴しようとして、
あまりの苦さにびっくりしたことがある。シャルは苦党なのにもかかわらず、だ。
だから聴覚もあまり無いのだと思っていた。
いや、それ以上に音楽を美しいと感じる感覚が無いと思っていた。
「うーん、ピアノは持ち歩くのがすごい大変なんだよ。
だからあまりお勧めできないなぁ」
「そんなこと無いわ。貴方と一緒に召喚すればいいだけの話だもの」
楽器はなにも知らない状態から始めるのは難しい。まあフェイテルのことだから
こなせてしまうだろうが。しかしピアノは邪魔だ。
演奏練習中に奇襲されたらどうするのだ。
それに第一ピアノは、あまり、教えたくない。
そうシャルはぐるぐる考えた。
「ああ、そうだ! 演奏じゃなくて踊りならすぐ教えられるよ! 
なにも道具使わないし!」
「踊り?」
問いかけに対し、シャルはにかーっと笑う。
「そう、踊り! ほら、ボクが魅了をするときにやってるやつだよ」
フェイテルはふう、と息をついた。
「だいぶ、私の求めているものとは違う気がするわ」
「そう? ボクはねー、踊りにとってもいい思い出があるんだ。
だからホントは教えたくないんだけど、フェイテルサマのためなら、ね?」
恩着せがましいことをいいながらくるりとシャルはその場で回った。
「貴方、ただ自分が踊りたいだけじゃないの?」
フェイテルの鋭い指摘。しかしシャルはすーっと目を細めて言う。
「僕と踊るのはフェイテルさま、貴方が二人目だよ」
「ああ、そういうことね」
フェイテルは察した。
シャルにはとても大切にしている時期がある。そのときをモチーフにした人形たちの
オブジェを合同宿舎のある世界の某所に隠し持っているくらいだ。
そしてそのときからずっと慕いつづけている人間がいる。いつか彼女の宿命と人生を
覗き、シャルに語ろうとしたら本気で怒り、フェイテルを本気で殺しにかかってきた
ことがあるくらい、大切に思っている人間だ。
彼女と、シャルは踊ったことがあるのだろう。
「そんなに大切なものならば、教えてくれなくて結構よ。貴方は私に勝てない。
そんな宿命が無ければ私は死んでいたくらい大切なものなんでしょう」
「……そうだね」
シャルは目を閉じて静かに言った。こうしてみると、軽い口調の彼と、
今のようなどこか暗い彼はどちらが本当のシャルなのかわからなくなる。
無論フェイテルは水晶からその答えを導き出そうとしたことがある。
水晶の出した答えは、矛盾。
つまり、同時に成立し得ないと思われがちだが、
どちらもシャルだということだった。
(不正義と呼ばれたり、邪悪そのものと呼ばれたり、矛盾の邪心と呼ばれたり…
忙しい子ね)
フェイテルは水晶の答えには絶対の信頼を寄せているので、
そう考えて納得していた。

「うわー、大変大変! …ってあれ。
私、まずいタイミングで戻ってきてしまいましたか」
カルニアが騒々しく帰ってきた。
「そんなことないヨ? ちょっとフェイテルサマと二人っきりはどきどきって
緊張してただけさ~♪」
「そうですかぁ?」
カルニアはシャルの言葉を受け入れるフリをして受け入れていないようだ。
「で、なにが大変なの?」
シャルに問われ、カルニアはぽんと手を打つ。
「防具作成承りますのチラシに募集にあっという間に人が集まったんですよ~。
まだ職人としての腕は低いので、時間がかかると思ったんですけどねぇ。
でも、とっても嬉しいです!」
カルニアは自分が腕を振るえることができることが嬉しいというのが
見てわかるくらいニコニコしていた。
「お、カルが作り笑いじゃない笑顔を浮かべているよ!」
「しっつれいなー。
それじゃあ、私がいつも作り笑いしているみたいじゃないですかぁ~」
シャルはそれには答えなかった。肯定も否定もされないので、
カルニアはトントンと地面を踏んだ。
「もう、ひどいですねー。こういうの、放置プレイっていうんですよ」
「そうなの?! カルのえっちー!」
「なんでそういう方面の解釈をしますか!」
「やーい、えっちえっちー!」
「もう!」
シャルが自分で遊んでいることに気がついたカルニアだが、
どうすることもできないのだった。
「ふふ、ふふふふふ…」
すると微笑んでいただけだったはずのフェイテルが声をだして
笑い出しているではないか。
ぽかんと邪心2人は固まって笑い声の源を見つめる。
「笑うって機能あったんだ…」
「笑うって機能あったんですね…」
驚いて同じことを同時に言う二人は、まるで本当の兄弟のようだった。

フェイテルが音楽に関わる機会はとりあえず、今回はお預けのようだ。


····· やっちゃったぜ☆

フェイテルは頭を振った。
他人と話をすることなどほとんど無かった自分が可笑しくて仕方がないのだ。
今近くには邪心たちはいない。
ひとり、魔方陣の近くの岩場に腰掛けている。

人と話している間に、
彼らのことは自分の使い魔だと言えばわかりやすいことを学んだ。
(学ぶなんてことが私にもあるなんてね)
さらに、自分は占い師に見えるらしい。
なるほど、確かに占い師は水晶を持っている者も多い。
否、水晶を持っていて、占いをやらない者が少ない。
間違われても仕方がないだろう。
(ヒトと話すことは、発見の連続ね。知ろうとすれば全て知ることができると
思っていた。でも宿命が全てではないのね。運命は、どうなのかしら)
ちらと弟のことを思い出す。
(あの子は旅していたらしいけれど、誰かと交流を持ったのかしら。
雄弁に話すあの子、見てみたいわ。――まあ無いわね。
すぐに自分の言葉が出なくなって黙り込むに違いないわ。エリアスみたいに)
ふふっと、笑い声がもれてしまう。
「さて。カルニアはうまくやっているかしら」
そっと水晶を覗きこむ。


「こんにちはー! 王様に謁見を申し込みに来ました!」
カルニアは、手回しをしないで、そのまま森の国の城に突撃していた。
森の国は開放的だという情報を事前入手して、
そのままニヴァルト(カルニアの愛バイク)に乗ってやってきたのだ。
そして城の受付で、いきなりこう挨拶したのだ。
しかし受付のほうも慣れているようで、
「ご用件は?」
と聞き返してきた。
「はい、フェイテルの使いの者と、王様に伝えていただけますか?」
フェイテルの名前が王に通じるか。
それはわからなかったが、邪心で知らないということはないだろう。
万が一謁見許可が出なかったら、この城の者たち全員を洗脳してまで乗り込もう、と
自然に考えていた。
「しばらくお待ちください」
そして手続きに向かう。
(ふーむ、子供だから門前払い喰らうかもしれないと思ったんですけど、
そんなことは無いんですねぇ)
どこからか取り出したジュースをストローでじゅーっと吸いながらカルニアは
ちょこんと座って待っていた。

(結構時間が経ちましたけど、遅いですねぇ。受付係さん、2人しかいないのに、
1人になってしまって大丈夫なんでしょうか)
なんだかんだで人の心配をしている。
そんなカルニアの横には袋が置いてあり、
そのなかには空になったジュースの容器が入っている。
(もう6本目ですよ…)
飲みすぎである。飲むのをやめればいいのに、そこらへんは頭に無いらしい。
すると、受付の人が戻ってきた。
「大変お待たせしました。王の許可が出ましたので、どうぞ」
「ありがとうございます」
カルニアは深々と丁寧にお辞儀をした。
「お手数おかけして申し訳ありません」
カルニアなりのねぎらいの態度である。彼も前世は王だった。だから城内の人間が
どんな風に働いているか。大変だろう、ということは把握しているつもりだ。
受付係に案内され、謁見の間に通される。
カルニアは慣れた風に王の前まで通されると、膝をついて敬意を現した。
しかししっかり見ていた。王の耳を。その耳は獣の耳のようで、
黒くてふさふさしていた。亜人でも王をやっている。
この国の解放的な風潮がわかった気がした。
「下がっていい」
王が言う。
受付係が出て行ったのを確認すると、王は口を開いた。
「君も邪心かい?」
単刀直入にもほどがある。カルニアは苦笑した。
「誰かに聞かれていたらどうするんですか。君“も”なんておっしゃってー」
カルニアは許可も出ていないのに顔を上げた。するとさっと王とカルニアの間に
少年が割り込んだ。
言葉には出していないが、効果音をつけるなら「シャーッ!」だ。
「あわわ。すみません、許可をいただいていないのに顔を上げてしまって」
カルニアは即座に謝り、頭を下げた。
少年は先ほどよりはマシだが、警戒の色を湛えた目でカルニアを見ている。
「よい。普通に接してくれ」
「立ち上がっても、いいですか?」
「構わん」
カルニアは許可をもらい、立ち上がって王に一礼すると、先ほどの質問に答えた。
「私は偽りと創造の邪心と呼ばれるヴァイザです。第6の世界が元々の出身地です。
普段はカルニアと名乗っております」
側近の少年の視線がさらに痛くなった気がする。
「そうか…私はビスマス・フォーゼ。第9の世界からここに飛ばされた。
この国は元々ただの集落だったのだが、国としてまとめ、
いまや4大国のひとつになるまで育ててきた」
その言葉でカルニアは察する。彼はかなりの昔に合同宿舎がある世界、
第1の世界に飛ばされてきたのだと。
「知っていると思うが、この世界には邪霊が発生し、人々が知らずに近寄ると
邪霊に取り付かれてしまう場が多くある。よく国内の場を潰すのだが、
先日、力の強いものと当たってな。人の形をとり、多くのゴーレムを生成し、
大地の呪文を唱えながら俊敏な動きで私を翻弄した。なんとか撃退できたのだが、
そのときから私の体の様子がおかしい」
カルニアは冷や汗を流した。
王が先日戦った相手に、心当たりが思いっきりあったからである。
「わ、私の部下が大変ご迷惑をおかけしたようで…」
「やはり貴殿の部下だったか。偽りの気配を漂わせていたからな」
「申し訳ありません。言うことをなかなか聞かないもので」
言いながらカルニアはその部下、ガンマのことを思い出していた。
(全く、なにやってるんでしょうあの子は! 
ここに来る前に随分ボロボロになって寝込んでいるのを見ましたけど、
人様にご迷惑をおかけしているとは…
邪心に昇格するきっかけを与えてしまうなんて)
そこまで考えると、質問を投げかける。
「それで…その様子がおかしいことについては、どの程度お解かりですか? 
私への質問からして、ご自分が邪心になってしまったのはご存知のようですけれど」
王は頷いた。
「自分が邪霊と呼ばれる存在だったことは知っていた。そして邪心になったとき、
声が聞こえたのだ。声の主は、貴殿が言った、フェイテルと名乗る者だった。
彼女の話を聞くと背中が寒くなった。威圧感だろうか。そんなものを感じたのだ。
そして、我々の世界にいる限り、全てのものは彼女の定める宿命に
逆らえないと知った」
カルニアは黙り込んで聞いていた。普段は喜んでフェイテルの使い魔のごとく
振舞っているが、本心では自分も自由になりたいと思っているのだから。
「そして、ある地方の邪心は、暴走を防ぐために彼女に管理されるような
仕組みになっているとまで、聞いた。だが」
王は言葉を切った。
下を向いていたカルニアがはっとなって王の表情を伺う。
彼はどこかしら寂しげに見えた。
「管理される理由はわかった。だが、彼女の気まぐれに従いたくはないのだ。
私はここの王。ここを守りたい。ここを頼ってきた民を裏切るようなことは
したくない。この地を離れたくはない。
たとえ、代理人を立てることができたとしても、だ」
それを聞いたカルニアの瞳から涙が零れ落ちた。
(…え?)
カルニアは普通の表情でその言葉を聴いていたが、
その状態から涙が勝手に流れ出たのだ。
「な、泣き落としでもビスマス様は動かぬぞ!」
側近の少年が叫ぶのが聞こえた。
そう、自分は偽りの邪心。自分の目的を果たすためなら手段は選ばない存在。
だから、そう思われても当然だ。だが違う!
カルニアは呆然と涙を流しながら、どうして自分が泣いているのか理解した。
「も、申し訳っ、ありません…一度、しゃがませて、ください」
そう言って返答も待たず、カルニアは座り込んだ。そして自分の周りに偽りの結界を
張り巡らせる。
「ビスマス様! こいつ、なにかやるつもりです! お気をつけて!」
「…わかった」
カルニアは結界で自分がしゃがみこんでいるだけだと見せかけていた。
そして、中で、泣きじゃくった。
むかし、むかし、大昔。自分が純粋に抱いていた思い。
“民を守りたい”
それを実践しているビスマスの姿、考えを聞いて、心の奥から後悔と少しの嫉妬が
押し寄せてきた。
「うあ、うう、うわあああああー!」
誰にも聞かれない叫び。
止まらぬ涙。

しばらくして。
「先程は失礼しました。急におなかが痛くなったもので」
言い訳にもならないことを口走りながらカルニアはけろっとしていた。
目が赤く腫れることも、泣き声にもならない便利な生命体である。
「さっきはなぜ術を使った!」
側近の少年が刺々しく言う。彼のほうを見て、カルニアは相手が子供なので
お子様モードでしゃべる。
「うわ、見えていたんですか? すごいですねぇ~。
そのあたりは誤魔化したつもりだったんですけど。
だって恥ずかしいじゃないですかぁ~。
痛がっている姿、見られたくなかったんですもん」
半分は嘘ではない。
こほん。カルニアは咳をした。
「失礼いたしました。先程のお話しですが、よくわかりました。
フェイテル様には、ここは離れたくない、ということを伝えておきます」
王が眉をしかめる。
「それでいいのか」
カルニアはにっこり笑う。
「難しいってことはわかっていましたから。おそらくですけど、これを伝えると、
このお城から強制的に呼ばれるときは呼ばれるようになると思います。
謁見中とか多忙なときはフェイテル様にも見えるので
気は使ってくださる…と…思うんですが」
語尾が濁った。
「なんだ、その歯切れの悪さは!」
少年がまた喰いかかる。それを王は彼の前に手を出して制止しつつ
カルニアに声をかけた。
「妥協せざるを得んな。貴殿もそれ以上の手はないのだろう?」
「はい」
こくりと頷く。
「では、あまり戦場で会わないよう、願っている。もう行くか?」
「そうですね。これ以上私もお話しすることはありません」
そう言って一礼すると…カルニアの姿は消えた。

「うわーん、酷いです! あれでは謁見が無事に終わったか
わからないじゃないですかぁ~! あのままでは私は不審人物ですよ!
ニヴァルトもまだ森の国だというのにー」
もちろん、文句の先はフェイテルである。
「仕方ないわね。ならば戻してあげるわ」
「え、ちょっとま…」
再びカルニアの姿は消えた。

「うわーん、酷いです! 私をなんだと思っているんですか!」
驚いていた王と少年に事情を軽く説明し、挨拶を終え、
城を出てニヴァルトに飛び乗り、合同宿舎に戻ってきたあとのことである。
「いい子」
フェイテルはにっこり笑う。
「う…」
カルニアは言葉を詰まらせる。
(それって、褒め言葉じゃないですよね。使いやすいって意味ですよねきっと)
ちょっと卑屈だが、間違いではなさそうなのがフェイテルの困ったところである。
「お使いお疲れさま、カルニア。貴方の言ったとおり、
彼の召喚はエリアス以上に気を遣うけれど、彼に合わせるわ」
「それはよかった」
カルニアはほっとする。

しかしカルニアは気がついていない。
つまり、それは自分やシャルには遠慮しないという意味だということに。
カルニアはキレ者と見せかけて実は、抜けているのかもしれない。

····· 今日の…

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